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 住民の参加による地方復権 一極集中からローカル生かす自立へ
 構想日本 加藤秀樹代表に聞く

政治・外交

 人口減少の加速化により地方の抱える問題はさらに大きくなっている。地方を再生させるにはどうすればいいのか。長年、多くの自治体とともに課題解決に取り組んできた政策シンクタンク、構想日本の加藤秀樹代表に問題の所在と解決の方向性を語ってもらった。

◇高度成長の結末としての一極集中、人口減少  
 人口減少や高齢化は何十年も前から分かっていました。ある意味では自然の流れでもあります。重要なことは、出生率が一番低いのが東京ということです。地方の方がおしなべて高いのです。地方から都会に人が集まり、その都会で特に少子化が進んでいる。そうやって、日本全体で少子化が進み、高齢社会になっています。

 原因はいろいろですが、根底にあるのは、国が、そういう社会のプランをし、人間の生き方をそう仕向けてきたからです。単純化すると、農業、漁業、自営業よりも、都会の有名企業に入り出世することが人生の成功であるといった価値観を広めてきたのです。高学歴で高職歴、高収入の達成が成功であるという図式が高度成長期からずっと続いてきました。私はどんな少子化対策もうまくいかないと考えていますが、そもそも「少子化対策」という問題設定が間違いで、何を幸せと思うかという人生設計、それを国全体で考える国づくりの問題です。

 大学を卒業し大企業に就職しても、社長になるのは何千人、何万人に1人です。役員になれる割合も少ない。つまり、高学歴で都会のサラリーマンとしての「成功」を目指すのはレッドオーシャン(競争相手が多い市場)に飛び込むことなのです。一方でブルーオーシャン(競争相手が少ない市場)は沢山あります。少子化は、そういう日本の仕組みとセットで進んできました。地方自治、地方行政についての議論をする前に、全体としてどういう国家にするかというビジョンを作らないといけません。


◇全国で「ミニ東京」を目指した

 長野県栄村の元村長さんがこんなことを言っていました。戦後まもなく、栄村の中学校に技術家庭科の実習のための旋盤機械が来た。彼はそれを見て「日本の将来は危ない」と思ったそうです。旋盤の仕事は金工です。栄村は周りが山で木ばかりなのに、なぜ木工でなく金工なのか。国は、もう木や土の時代は終わり、セメントと金属の時代だと言っているのだろう、つまり、日本中「ミニ東京」になれということか、と思ったと言うのです。国がそういう方針で、それに従わないと金が来ない。だから村長になってからは自分を騙し騙しやってきたと。しかし、日本全国をミニ東京にできるはずがない。栄村からは県庁のある長野市に出て行き、長野市からは東京に出て行くようになってしまった。

 そして、その状況を追認するように市町村合併を繰り返すのです。ヨーロッパでは日本ほど過疎の問題は大きくありません。人は300人ぐらいの村もたくさんある。根底には「ミニパリ」とか「ミニロンドン」作り政策を取らなかったことがあると思います。

 その村長さんが批判していたことを今でもやっているのです。地方の首長さんたちは高速道路が欲しい、新幹線が欲しいと言っていますが、実現すれば必ず都会に人口や消費を吸い取られてしまいます。多様化とか、自治とか、言葉としては言いますが、いざ実行になると全く逆のことをやっている。安倍政権の「地方創生」もその加速でした。田中角栄の「日本列島改造」は、あの時点では仕方がなかったと思いますが、その後どこかで変えなければいけなかったのです。

◇消滅自治体論、道州制論への疑問
 以上の点から考えると、消滅自治体論(2050年までに消滅する可能性の自治体が744あるとする分析)には全てが欠けていると思います。山の中であろうがどこであろうと、人が昔から住んでいるというのは、そこで食べていけるものがあったからです。例えば石炭が出たら人が集まって、出なくなったら減る。そういう波はあったとしても、元々のベースの、食べていけるものがあるから人間がいる、という前提を大事にするところからスタートしないといけません。消滅自治体の議論にそれはありません。若い女性の数で予測するという分析ですから、女性はみんな怒っています。 その地域に住む人と一度も話したことがない人たちが数字だけで考えていることです。

 自治体行政として立ち行かなくなる可能性は大いにあるでしょう。お金がない中で、どうにかする方法を考えないといけません。しかし、今の数字と今やっていることを前提とし、その延長線で考えるから、ああいう話になるわけです。

 今起きているのは、自治体間の人の取り合いです。例えば、子供が生まれたらお金をあげます。20歳まで医療費を無料化します。そうなるとお金をもらえるなら行きましょうという話になり、住民の取り合いになる。首長さんは4年に1度、選挙がありますから引っ張られてしまいます。

 地方制度の改革で道州制という議論がありますが、私には何をどうしようというのか分かりません。そもそも国は全国を8つとか9つに分けて、出先機関を置いているわけで、広域行政ならばそれでいいのではないでしょうか。私は都道府県についても本当に必要かと思っています。市町村の人に聞くと、国と必要な形で繋がっていればいいので県は間に入って邪魔だという人が多いのです。 住民のことを直接把握しているのは基礎自治体ですから、そこが一番重要なのです。平成の大合併が失敗だったと思うのは、新しく合併した中でまた新たな集中が起きているからです。学校も減り、自治体の職員も減る。予算が少なくなる中で、国から補助金が出るからというので、無駄とわかっている施策でも使わざるをえない。その分、基本的なところに行くべき金が減ってきているのです。大きくすることで効率を求めるとキリがなくなる。どんどん合併させないといけなくなる。もっとローカルに、地域の特性、住民の知恵やつながりを生かすようにしないといけないのです。

加藤秀樹

◇「自分ごと」として自分の町を考える
 私たち構想日本では政治・行政のことを考えるときに「自分ごと」ということを重視しています。自分の出身高校が甲子園に出場したときに嬉しくて応援しようと思うのは「自分ごと」だからです。NHKのBS放送で『世界ふれあい街歩き』という番組があります。ヨーロッパの小さな町に行き、何人かが集まっているカフェで話を聞くと、「自分の町が世界一だ」「こんな綺麗な町はない」と話してくれる。そこで生まれ育ち、共同意識があり、自分の町を大事にしようと思っているわけです。つまり、自分の町を「自分ごと」として考えている。

 そういう趣旨で、私たちは「自分ごと化会議」を、毎年20ほどの自治体で行っています。無作為に選ばれた住民が行政が行っている事業や町にとっての課題をテーマとして話し合うのです。これまで全国156の自治体で356回、参加者は1万1千人を超えています(2024年3月末現在)。例えば、実際に災害が起きると、役場の職員に全部やれというのは難しいのです。小さな町だと200人ぐらいの職員なので、町民が自分たちで何ができるかという話になります。電車やバスが無くなったら困るという問題だと、考えてみたら自分たちがあまり乗ってないじゃないか、どうすればいいか。せめて電車に自転車を乗せられるようにできないか、といった議論になる。

 「総合計画」も無作為に選んだ人にやってもらうことがあります。そうすると参加者は町を隅から隅まで歩き始めるわけです。これは観光に使えるとか、空き家をどうにかしたいとか。観察を始めるとアイディアが出てきます。「自分の町のことをこんなに考えたことがなかった」「本当によく自分の町を観察して楽しかった」という感想を聞きます。肩書きのある人、商工会議所の会頭さんや議員さんではなく、抽選で選ばれた人たちから面白い意見が出てくるのです。

 何かの課題について公募で人を集めると、関心のある人だけしか集まりません。原発だったら、反対、賛成、どちらかです。しかし、ほとんどの人はその中間にいるわけです。無作為抽出で案内を1000人へ送ると、大体4~5%、40~50人が応募してくれます。私が感じるのは、世論というのは、最初からあるものではない。最初にあるのは「何となく、こんな感じかなとか」というものですが、他の人と話をしながら、だんだんと、まさに世論ができてくるということです。先ほどの『町歩き』の番組ではカフェに集まって話をして自分たちで世論形成をしている。そういう場所を今の日本でも作っていきたいと思っています。

 ◇多様な経済、生き方のサポートを
 一極集中ではなく、ローカルを重視し、多様な経済、多様な生き方をサポートしていく、自立というのはもっとローカルさを生かすことだと考えます。そのためには教育も関わってきます。もっと自分の目の前に広がっているブルーオーシャンに漕ぎ出していくような教育です。それには30年も40年もかかるかもしれません。地方に就職口が少ない、食っていけないという問題は鶏と卵です。自分たちの町で考える場所を作っていくしかないわけです。

 日本では、政治・行政関連の改革というと、いまだに議員の定数削減、参議院改革、あるいは市町村合併や道州制など広い意味での組織の議論の話が多いのですが、そうではなく、住民の地方行政への参加と、それを生かした国、地方の役割の見直しという視点で、日本の政治・行政システムを考える時期に来ていると思います。 

(聞き手・構成 冠木雅夫)

【略歴】
加藤秀樹(かとう・ひでき)
大蔵省で勤務後、1997年「民」の立場から政策を立案・提言、実現するため、非営利独立のシンクタンク「構想日本」を設立。慶應義塾大学総合政策学部教授、東京財団会長、内閣府行政刷新会議議員兼事務局長、京都大学特任教授などを務めた。近著に『ツルツル世界とザラザラ世界 世界二制度のすすめ』 (Speedy Books)。加藤秀樹

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