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特集 プラスチックによる環境汚染の現在
 高田秀重教授インタビュー(全2回)
 第1回 微細プラスチックの人体への影響

特集

高田秀重(東京農工大学教授)
聞き手:浅井隆(経済ジャーナリスト)

◇ペットボトルに溶け出る危険性

浅井 学生時代にローマクラブの『成長の限界』を読み、環境問題にずっと興味を持ち続けてきました。いま微細プラスチックの問題がかなり深刻と捉え、第一人者である先生に地球環境および人体への影響について、なるべくわかりやすく話してもらいたいと思います。

高田 私も『成長の限界』やバリー・コモナーの『なにが環境の危機を招いたか』などを読んでこの道に入った世代です。世界のプラスチック生産量は毎年4億トンを超え、1950年〜2015年までに地球上で生産された全プラスチック量は83億トン、プラスチック廃棄物量は63億トンと推定されています。廃棄物のうちリサイクルされたものは9%、12%が焼却され、79%は埋め立てられるか野外に放置されているので、一部が降雨時に河川や海に運ばれ、2019年には年間170万トンが海へ流出したと考えられています。対策を強化しなければその量は2060年には400万トンに増加すると推計されます。

 今まで作られたプラスチックの半分以上が地上に残留し、あとは海に流れていて、適正に処理されているものが非常に少ないことが問題です。他の素材、紙とか木なら分解されていずれ土に還りますが、プラスチックは土に還らず、小さくなるだけで分解されません。

 プラスチックは作った瞬間からもう劣化が始まっていて、製品としての使用中にもマイクロプラスチックやナノプラスチックを放出し、廃棄された後は紫外線や摩耗など物理的な力が加わることで、マイクロプラスチックやナノプラスチックの放出がさらに続くことがわかってきました。非常に長い期間、危険な状態が続くのです。

 例えばペットボトル1本の水の中に50個、マイクロプラスチックが入っています。ボトルが自然に劣化して生成されたもので、飲めば体の中に入ります。水道水はどうかといいますと、マイクロプラスチックは大気中にもあるので、どうしても水道水の水源にも入ってきますが、ペットボトルに比べれば量は少なく、1日当たり11個ですからペットボトル換算で3~4個ぐらいになります。

浅井 人間が1日2リッター水を飲むと考えて、ペットボトル1本が500ミリリットルですから50個が4本分となり、ペットボトルだけで飲んでいたら毎日200個のマイクロプラスチックを摂取することになりますね。

高田 マイクロプラスチックは1マイクロメートル(1000分の1ミリ)よりも粒子が大きいものです。それでも目に見えるサイズではありません。もっと小さなナノプラスチック(1マイクロメートル以下)まで考慮するとペットボトル1本あたり12万個入っているとの研究があります(Rapid single-particle chemical imaging of nanoplastics by SRS microscopy, Naixin Qian et al, PNAS,2024 Jan,8)。

浅井 ペットボトルのメーカーによってその数に違いはありますか。

高田 同じ PET というポリマーで作られていて、それが劣化してマイクロプラスチックを放出しています。数はメーカーごとに多少違うとは思いますが、大量に出てくる点では同じだと思います。

浅井 毎日飲んでいれば、とんでもない量を摂取することになりますね。

高田 そうですね。ペットボトルだけではなく、プラスチック製の食品保存用の容器がたくさん出回っていて、あれを電子レンジで加熱すると劣化が促進されます。密閉できる食品保存容器に水を入れて電子レンジで3分間加熱すると、1平方センチメートルから420万個のマイクロプラスチックが放出されることが、2023年の論文で発表されました(Assessing the Release of Microplastics and Nanoplastics from Plastic Containers and Reusable Food Pouches: Implications for Human Health, Kazi Albab Hussain et al, Environ. Sci. Technol. 2023, 57, 26, 9782–9792)。

◇どのように体内に入るか

高田 プラスチックは磨耗や、野外での使用で紫外線が当たると、マイクロプラスチックの生成が加速されます。例えばタイヤや人工芝、野外で使う建築資材などが紫外線で劣化すると、マイクロプラスチックが発生します。野外で発生したマイクロプラスチックは地面や道路の上にたまっていて、雨が降ると流されて最終的には海に入り、海洋生物に食べられることになります。

 洗濯も同様です。フリース(化学繊維)の衣服を洗濯すると、磨耗でマイクロプラスチックが2000本発生します(Accumulation of Microplastic on Shorelines Worldwide: Sources and Sinks, Mark Anthony Browne et al, Environ. Sci. Technol. 2011, 45, 21, 9175–9179)。洗濯排水として1人1日10万本程度のマイクロプラスチックが放出されます。下水道に流れると下水処理で98%は除去されますが、除去されない2%は川や海に流れます。ペットボトルをリサイクルして衣料品を作るのがもてはやされるのは問題だと思います。

 化粧品や洗顔料の中にも、微細なプラスチックが入っているものがあります(入っていないものもあります)。

浅井 それはラベルを確認すればわかりますか。

高田 ポリエチレンとかポリプロピレンといったポリマーの名前が書いてあるとわかることもあります。あとは化粧品に使ったり食器や体を洗うスポンジもプラスチックでできていますので、削れたスポンジくずは微生物分解されずに環境に残留します。特にメラミンフォームのスポンジは1個(5グラム)から数千万個のマイクロプラスチックが発生することが報告されています(Mechanochemical Formation of Poly(melamine-formaldehyde) Microplastic Fibers During Abrasion of Cleaning Sponges, Yu Su et al, Environ. Sci. Technol. 2024, 58, 24, 10764–10775)。

浅井 スポンジは私も調べて心配になったのでヘチマに変えました。あと怖いのは魚介類に蓄積されたプラスチックが、それを食べた人にどういう影響を与えるかです。魚介類を食べても大丈夫でしょうか。

高田 現時点で魚貝類を避ける必要はないと思います。魚貝類からマイクロプラスチックを摂取することを心配するなら、食品トレーや弁当箱やカップ麺容器、ペットボトルなど飲食に使うプラスチックを避ける方が効果がありますね。海水にも大気中にもありますから完全に防ぐのは事実上不可能で、あとはマイクロプラスチックが有害な化学物質を体内に運び込んでいることが問題です。私たちの研究でも、紫外線吸収剤やPCBがマイクロプラスチックと同時に検出されていますが、そのレベルがどれくらいになると問題が起きるかまだわかっていません。少なければ問題は起こりにくく、なるべく減らすのがいいと思いますが、ゼロにするために何も食べないわけにはいきません。私は魚介類は好きで、よく食べています。

 プラスチックは魚介類を通じたルートよりも、ペットボトルなどの商品や容器から入ってくるほうが影響が大きいと思います。なぜなら人体の血液中のマイクロプラスチックを測ると、人によってかなり差があるので、どういう容器や食器を使って食べているかが影響していると考えています。

浅井 先生はどのくらい長い期間、ペットボトルを使っていませんか。

高田 ペットボトルに入った飲料は10年以上飲んでいません。水道水を沸かして淹れたお茶などが入ったステンレス製のマイボトルを外出時に持参しています。ガラスや陶器、ステンレスは劣化でマイクロ物質を放出する素材ではないことが、繰り返し使う用途にはいいところです。どうしても使い捨てにする素材には紙や木を使うようにすれば、ゆっくり水と二酸化炭素に分解して循環させることが可能になり、カーボンニュートラルになります。

 コンビニ弁当を電子レンジでチンするのはよくないと思います。微細化したプラスチックの問題もありますが、電子レンジにかけることでプラスチックに含まれる添加剤の化学物質が食品の脂肪分に溶け出してきますので、ダイレクトに生殖細胞等に影響が出てくるのではないかと考えています。冷凍食品もプラスチック容器のまま電子レンジで解凍すればマイクロプラスチックと添加剤が食品に入ってくることになります。もしそういうものを食べるなら、ガラスや陶器のうつわに移して温めたほうがいいと思います。

浅井 カップ麺もよくないですね。

高田 カップ麺もポリスチレンに加えて添加剤も入っていますから、加熱すると脂っぽい食品に溶けやすくなります。私たちも生殖作用に影響のある添加剤を検出しました。

 具体的には生産されたプラスチックの量のうち7%(4億トンのうち2800万トン)が添加物で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤などです。これらが食事で人体に入り、生物濃縮されます。

◇内分泌かく乱物質の人体への影響

浅井 するとどういうことが起きますか。

高田 添加剤の多くが内分泌かく乱化学物質ですので、体内に蓄積されると性や生殖に関係する異常を起こしますし、免疫作用にも影響を及ぼすことが考えられます。例えば、乳がんあるいは子宮内膜症の増加の原因になりますし、日本の環境省のデータを元に、研究者が調べたところ、全国9万4千組の親子のデータで、市販の弁当と冷凍食品を週2回以上とる人はそうでない人よりも妊娠12週以降の死産の割合が3倍になったとの報告もあります(Impact of ready-meal consumption during pregnancy on birth outcomes: The Japan Environment and Children’s Study, Hazuki Tamada et al, Nutrients. 2022 Feb; 14(4): 895)。


出典:Impact of Ready-Meal Consumption during Pregnancy on Birth Outcomes: The Japan Environment and Children’s Study. Tamada, H., Ebara, T., Matsuki, T., Kato, S., Sato, H., Ito, Y., Saitoh, S., Kamijima, M., Sugiura-Ogasawara, M., on behalf of the Japan, E., Children’s Study, G., 2022. Nutrients 14, 895. 10.3390/nu14040895

浅井 いま不妊などのトラブルを抱える方が多いですね。

高田 特に若い人に多く、同じ問題が男性の場合は精子数の減少となって表れてくると思います。内分泌かく乱物質との関連で、ヨーロッパでは成人男性の精子数が過去40年間で半減したとの報告もあります(Temporal trends in sperm count: a systematic review and meta-regression analysis, Levine, H., Mindlis et al, Human Reproduction Update 23, 646-659. 20. 1093)。このような添加剤の影響は、生殖作用にとどまらず、免疫力の低下にも関与しています。さらに、最近の研究では、プラスチック添加剤が肥満や糖尿病とも関連があることが指摘されています。

浅井 先生はペットボトルのフタの部分がよくないと指摘されていますね。

高田 ペットボトルの本体には添加剤はほとんど入っていませんが、フタは別です。PET とは違う柔らかい素材のポリエチレンか、ポリプロピレン素材で作られ、いずれも添加剤が使われています。それらが溶け出して飲み物の中に混ざるかもしれませんし、フタも適正に処理されなければゴミとなって環境に広がっていき、添加剤が溶け出して、やがて生物に入ることになります。

◇20世紀型の環境規制を改めよ

浅井 先生はプラスチックの地球環境への影響を、どれくらい危機的とみていますか。

高田 いまは危機的なレベルだと思います。プラスチックの問題は、我々が晒されているたくさんの化学物質の一部です。自動車の排ガス、石油、合成洗剤、薬剤など、多種多様な化学物質に私たちは常に複合的に暴露されているのが現在の状況です。

 それぞれの物質に有害性があり、一つひとつは法的に決められたレベルを下回って存在していたとしても、組み合わさることで影響が出る可能性があります。物質AとBが複合するとどのような影響が出るのか、似た性質なら足し算もできますが、AとBの性質が違う場合、例えば一方は発がん性物質で他方は内分泌かく乱物質だと、どうなるか調べる手法をまだ私たちも持ってないので、評価が非常に難しく、全体像がわかりません。

 一つの物質がこのレベルを超えると問題になるという規制基準は20世紀の考え方で、21世紀はいろいろな化学物質が複合的に人類に暴露されている時代ですから、なかなか一対一の因果関係を見出すことも、証拠を得ることもできません。証拠がないので問題がないとみなす保守的な考え方もあります。日本がそれで、一対一の因果関係がつかめなければ放置します。

 例えばいま問題になっているPFAS(有機フッ素化合物)の基準を決める検討会では、現状の規制の仕方を維持する結論になりました。PFASがあるレベルを超えると、生殖機能に影響が出る証拠も出ていますが、他の物質の影響の可能性もあるとして基準を厳しくしませんでした。これは一つの化学物質や単独の原因で重大な公害問題が生じた、20世紀型の考え方です。他の物質の影響の可能性があるならば、可能性のある物質も含めたトータルでの規制が必要です。

 もう一つの考え方は、個々の物質は問題ない有害性のレベルかもしれないが、まとまると問題が発生するかもしれないと考えて予防的に対応するアプローチです。例えばヨーロッパでは、一つひとつの物質のレベルは低くても使わないようにしていく、あるいは規制していく予防的なアプローチで主に動いています。21世紀の現在では広く薄く、いろいろな化学物質が作用しますので、昔ながらの規制の仕方では追いつかないのです。

 プラスチックの問題もまさにそれで、マイクロプラスチック単体で影響が出ることは考えにくく、証拠も得られないからと使い続けるのではなく、予防的に問題を避ける考え方に転換すべきです。ヨーロッパではペットボトルを使わない仕組みがあり、消費者の意識も高いのです。実際、ヨーロッパで行われる国際会議や首脳会談のテーブルを見ると、大抵ガラスの瓶で飲み物が置かれています。日本やアメリカではペットボトルが並んでいます。

 ヨーロッパにはこのような生物影響に加えて、廃棄物管理の観点からもペットボトルの使用自体を消費者が避ける仕組みがあります。ヨーロッパにはペットボトルの廃棄物管理に「拡大生産者責任」を導入している国や地域があります。拡大生産者責任とは製造者あるいは流通させるメーカーの側が、その製品のリサイクル、あるいは処分の費用まで負担します。使用済みペットボトルの回収費用、リサイクルの費用をメーカーが払うので、ペットボトル飲料の料金は高くなります。ガラス瓶は回収して1回洗浄すればいいので、リユースの費用はそれほどでもなく、結果としてガラス瓶の飲み物の価格が安くなり、消費者に選ばれることになります。

 日本は確かにリサイクルはやっています。たいていの場合、自治体が回収して税金でリサイクルを行っているため、そのコストが製品に付加されない、ペットボトルを使う人も使わない人も合わせて税金でペットボトルの処分費が支払われる仕組みになっており、消費者には見えにくいのです。

浅井 プラスチックをすぐになくすことは難しいとすれば、少しでも安全性を高める方法はありますか。

高田 例えば特殊な加工を施してマイクロプラスチックが出にくいようにはできますし、マイクロプラスチックになりにくい素材を選ぶことも可能です。ただ、いかなる環境でも劣化しないプラスチックを作ることは不可能だと思います。プラスチックは炭素と炭素の単結合で結ばれているので柔軟に加工しやすいわけですが、紫外線でその結合が切れやすく、加工に便利だからこそ劣化しやすい特徴があります。ステンレスや陶器やガラスは、簡単に加工できない代わりに自然劣化が起こりにくいのです。

 マイクロプラスチックと添加剤の問題を避けるには、やはりそもそも使わないように供給の蛇口を止めていくしかありません。予防的なアプローチを日本でどう展開していくか、次回でお話します。

(取材・構成 編集部)

<第2回 国連プラスチック条約に合わせたとりくみ>に続く

【略歴】
高田秀重(たかだ・ひでしげ)
 東京農工大学農学部教授。1959年生まれ。東京都立大学大学院理学研究科博士課程中退。理学博士。著書『環境汚染化学』共著(丸善出版社、2015)ほか

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