「グローバル・アイ」
第5回 西川 恵

欧州各国では、政治風土の左右両極の政党が勢力を拡大している。

コラム

両極広がる政治風土 欧州を追う日本

 今回の総選挙(10月27日)は日本の政界に新しい風土を生み出した。右と左の既成政党を超えた「より右」、「より左」の政党の登場と伸長であり、政治風土の左右両極への拡大だ。

 長年、日本の政治は自民党が最も右、日本共産党が最も左という構図が続き、この左右の間で政党の離合集散が行われてきた。

 れいわ新選組は2019年に設立されたが、同年の参院選ではいわゆる「諸派」扱いで、いつ消えるか分からない政党とまだ見られていた。しかし今回の総選挙で議席を3から9に伸ばし、政界の一角に無視できない地歩を築いた。昨年11月に設立されたばかりの自民党より右の日本保守党も3議席を獲得し、政界進出を果たした。

 れいわ新選組の政策は共産党より左の、ポピュリズム的な主張が並ぶ。消費税廃止は当然として、「季節ごとのインフレ給付金」「メイド・イン・ジャパンを買いまくり、産業の国内回帰」「農林水産品の全量買い取り」等々。

 一方の日本保守党は、昨年6月に成立したLGBT理解増進法(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)への反発が契機となって設立された。「日本の国体と伝統文化を守る」を理念とし、難民受け入れに後ろ向きで、入管難民法の改正と運用の厳格化、移民政策では家族帯同を認めた政府方針の見直しを求めている。

 欧米では政治の両極化、過激化、ポピュリズムといった潮流が、すでに21世紀に入ったころから顕著になっていた。ただ米国では民主党と共和党の二大政党の枠内に、それぞれ最左派、最右派を抱えているのに対し、欧州は既存の左翼政党や保守政党とは別に新政党が設立され、両極化が進む。この点で日本は欧州に近い。

 欧州の主要国では既存の左翼政党や保守政党が地盤沈下し、より右と左に寄ったポピュリズム政党がキャスティングボートを握るなど政局に影響を与えている。

 かつてはマイナーだったフランスの極右・国民戦線(FN)は、18年に国民連合(RN)と改称し、現在は野党第2党。大統領選の度に決選投票に進む。2年前の決選投票では得票率41%と過去最高だった。16年に設立された急進左派「不服従のフランス」(LFI)も今年7月の総選挙で躍進し、マクロン大統領の首相指名に反対して2カ月にわたって政治を混乱させた。

 ドイツでは13年に結成された右派・ドイツのための選択肢(AfD)が、今年9月に行われた旧東独の3州の州議会選挙で第1党、または第2党になった。また今年1月に左翼政党から分離した左派BSWも2州で第3党になった。

 イタリアでは1990年代に共産党の流れをくむ左翼民主党と保守中道のフォルツア・イタリア(FI)が2大政党となり、両党を軸に連立政権が形成されてきた。しかし2012年に設立されたファシズム運動に起源を持つ右派・イタリアの同胞(FDI)が22年の総選挙で一躍勝利し、現在はFDIを軸に党首のメローニ氏が首相として中道右派政権を率いている。

 3国の右派、左派のポピュリズム政党は、フランスのRNを除き、いずれも若い新興政党だ。その勢力伸長の背景には、エリート率いる政治に対する反発、グローバリズムへの強い懐疑心、富の偏在への不満、不法移民への反対など、人々の渦巻く不満がある。これは米国も同様で、大統領選におけるトランプ氏の勝因にもなった。

 またポピュリズム政党は多かれ少なかれ自国第一主義で、欧州連合(EU)への反発やウクライナに対する支援反対もここに根差す。

 総選挙で現出した日本の新しい政治風土は、欧米の政治現象が約20年のタイムラグで波及したと見ることができる。欧米におけるエリート層への反発は、日本では増加する二世議員への違和感であり、日本の政治・経済・産業を長年主導してきた体制的なるものへの反発という形で現れている。後者は東京都知事選や兵庫県知事選でその一端が露わになった。グローバリズムへの警戒心は元々日本人の間で強かった。グローバリズム=米国に都合のいい体制と見る傾向もあった。富の偏在では日本は欧米ほど貧富の差はないが、それでもジワリと貧困層の拡大が感じられている。

 中長期的に日本の政治も欧州の主要国の状況に近づいていくように思う。連立政権を成立させるための苦労、既成政党からポピュリズム政党への議員の鞍替え、自国第一主義派と国際派の対立の激化、SNSを駆使して流動化する無党派層……。いまの欧州の混乱する政治を見ていると、自公が安定多数を握っていた時代が懐かしいと振り返ることになるのではないかと考えてしまう。

【略歴】
西川 恵(にしかわ・めぐみ)   毎日新聞客員編集委員
1947年生まれ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員。フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。日本交通文化協会常任理事。著書に『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)など。

  

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