岡田陽介氏インタビュー(全2回)
投票を通じた政治家とのコミュニケーション
第2回 ネット時代の政治参加・再考

有権者は政治に何を求めているのだろうか(写真はイメージ)
岡田陽介(拓殖大学政経学部准教授)
◇社会問題と化した選挙
2024年に入ってから、4月末に行われた衆議院東京15区の補欠選挙や、7月の東京都知事選挙の模様が、政治そのものを超えた一種の社会問題として取りざたされることが続いています。
補選では「つばさの党」が他候補の演説会場に押しかけ、直撃と称して他候補に質問を大音量でぶつけるなどしたことが選挙妨害ととられ、つばさ陣営は逮捕者を出す騒動となりました。
また都知事選では、NHK党が大勢に立候補者の届出をさせた後、ポスター掲示枠を他人に売る、つまり金銭によって掲示場にポスターを貼る権利を譲渡するというケースが発生しました。さらに候補者の一人は半裸女性のポスターを貼ったことで、大きな非難を浴びました。
これらは「選挙制度への冒涜」と片付けられてしまいますが、もう少し踏み込んで考えてみればまた違ったものが見えてきます。例えばつばさの党はYouTubeやSNSでの再生回数、インプレッションなどの数字を稼ぐことに主眼を置いていました。その場合、極端な行動に出れば多くの人の目を引くことは確かです。
ただし、「候補者本人に街頭で質問をぶつける」という点については、そこだけ見れば一理あるとも言えます。大音量で他候補の演説に質問をかぶせるようなやり方には問題があり、それが「他の有権者の聞く機会や権利を妨害している」ことになったのですが、有権者自身が「候補者とリアルに会って、聞きたいことを聞く」ということ自体は重要です。
◇候補者に実際に会ってみると
街頭演説の場では、せっかくその場に候補者本人が来ているのに、多くの有権者は一方的に候補者の話を聞いて、拍手をして終わってしまう。そうではなく、有権者は候補者と対話し、自分の意志を伝えるとともに相手の考えを知る機会とすべきでしょう。
また、ポスター枠の売買や半裸ポスターなどに関しても批判が相次ぎました。これについても、確かに問題はありました。しかし実際には、枠の売買を知った人や半裸ポスターを見かけた人が問題であると感じ、声を上げ、警察や選挙管理委員会に改善や撤去を申し入れたのです。これはつばさの党が行った選挙妨害に対する非難と同じで、「放っておけば、こうしたものがどんどん増えてしまう」と考え、「それは望まない」と声を上げた。そのこと自体に大きな意味があります。
これは政治や選挙のあり方に有権者が関心を持ったからこそであり、仮に多くの人が関心を持たなくなれば、一部の興味を引きたい人たちがより行き過ぎた行動をとるようになっていたでしょう。選挙妨害やポスター問題は、むしろ多数の有権者の政治に対する意思表示の重要性を明るみに出したものであるとも言えます。
他にも都知事選では、安芸高田市長だった石丸伸二氏がネットやSNSだけでなく、TikTokなどのショート動画を利用して得票数を伸ばしたことが大きな話題になりました。こうしたネットでの動画などは、候補者はネガティブな情報や要素をなるべく出さず、見せたい姿だけを有権者に見せることができ、それによって得票を伸ばすことの是非が問われる事態ともなりました。
以前から、選挙に関する研究の中では有権者が誰に投票するかを決める際には大きく三つの要因があるといわれています。それはウェイトの大きなものから政党、候補者、政策の順にあげられます。
となれば当然、候補者もこれらをいかに有権者にいい形で伝えるか、様々な手段を考えます。街頭演説や集会などで直に接することのできる機会や範囲には限度があることから、以前からポスターやチラシを配って、候補者の所属政党や人柄、生い立ち、そして政策を知ってもらう努力をしてきました。その一部が制度的に解禁されたことで、ネットでの発信に置き換わり、大きなウェイトを占めることになった、と言えるでしょう。
もちろん、いくらネット上で「候補者のいい面だけを見せる」動画が拡散されたとしても、実際に会ってみたら思っていたのとは違った、とネガティブな印象を持つこともあり得ます。それは実際に会う方がやはり様々な情報を得られるからでしょう。
◇投票による政治参加を見直す
より気を付けなければならないのは、「そもそも候補者や地元の議員と実際に接触する機会を持てているか」という点です。
私は現在、政治家の声の研究を行っており、声が高い場合と低い場合とで、有権者はどちらを「信頼できる」と感じるかという調査を行っています。政治家1000人以上のサンプルを録音して調査や実験しているのですが、実はここで問題になっているのが、多くの人が、首相や各党の党首などの全国レベルの政治家と比較して、地元選出の政治家の声を思い出せないというケースがかなり多いということです。つまり、政治家が普段どのような声で話しているかを、有権者がそもそも知らない、ということが明らかになったのです。
例えば総理や官房長官などの職にある人の声は、報道を通じて耳にする機会が多い。これは選挙区が全く違っても、実際に会ったことがなくてもメディアに登場するから声を知っているわけです。
一方、地元選出の議員であっても、その人物がどのような声で話すかを、有権者はほとんど知りません。これは「地元の議員の声を、地元の有権者が聞くというコミュニケーションがあまり行われていない」ことの表れであり、先ほど指摘した、街頭演説時において候補者と有権者の間での対話の機会がないこととも重なる問題です。
より良い政治のためには、候補者や政治家と有権者、また有権者の間での対話が必要なのではないかと思います。
政治参加には、投票から、選挙運動の手伝い、署名運動の実施など、非常に幅広い活動があります。みずから立候補することもその一つです。
その中でも最も中心でありながら、ある意味では最も手軽に参加できるのが選挙時の投票です。政治参加の方法として、改めて投票を見直してはいかがでしょうか。
(取材・構成 梶原麻衣子)
岡田陽介(おかだ ようすけ)
拓殖大学政経学部准教授。2010年学習院大学大学院政治学研究科博士後期課程修了。博士(政治学)。立教大学社会学部助教、拓殖大学助教などを経て、2019年4月より現職。有権者の投票参加や政治家の印象形成など政治心理学に基づいた研究に従事。専門社会調査士。著書として『政治的義務感と投票参加――有権者の社会関係資本と政治的エピソード記憶』(木鐸社、2017年)、監訳書に『投票の政治心理学 投票者一人ひとりの思考に迫る方法論』(マイケル・ブルーター/サラ・ハリソン著、上原直子訳、みすず書房、2023年)がある。
