特集 プラスチックによる環境汚染の現在
高田秀重教授インタビュー(全2回)
第2回 国連プラスチック条約に合わせた取り組み

高田秀重(東京農工大学教授)
聞き手:浅井隆(経済ジャーナリスト)
◇プラスチックの経済システム
浅井 微細プラスチックによる汚染は、私たちが便利な生活を追求しすぎた代償なのでしょうか。
高田 便利になりすぎたというよりも、プラスチック製品を使い終わった後の廃棄のルートとリサイクルのコストが外部化されていたために、どんどん使えたこれまでのツケが回ってきたのだと思います。
浅井 なるほど。消費者が選んだというより、メーカーが拡大生産者責任を負わないために、処分やリサイクルの費用を税金で賄ってもらって外部化できるので、どんどん作って使うよう制度的に仕向けてきたことが問題なのですね。
高田 そうです。それでプラスチックが大量に作られ、廃棄される状態になっています。この経済システムを変えるしかありません。不便な生活に戻れというのではなくて、本来メーカーが負担すべきリサイクルのコストが税金で広く分け持たれているので、消費者はプラスチックが安いと思い込んでいるだけなのです。
ですから、前回お話したヨーロッパで導入されている「拡大生産者責任」を日本でも進めていくことが一つの解決策になると思います。
◇さまざまなリスクを考える
浅井 話は変わりますが、お茶を入れるティーバッグのネットも最近はプラスチック製ですね。リスクはないのでしょうか。
高田 熱湯で抽出するとナノプラスチックが出てくるという研究を見たことがあります。私はティーバッグを使わず、缶から直接ポットに茶葉を入れ金属製の茶こしで茶葉を除いています。
浅井 不織布のフェイスマスクもプラスチック製ですね。
高田 ポリプロピレンという劣化しやすいプラスチックでできています。私は不織布マスクをしていないと病院に入れないとき以外は使いません。普段は大学で作っているコットンのマスクを使用しています。
浅井 コットンのマスクはおそらくコロナウイルスを通してしまいますね。
高田 不織布マスクに比べれば通しやすいですね。マスクにプラスチックが使用されるのはウイルスの外側の疎水性(水に溶けにくい性質)の膜(エンベロープと呼ばれる脂質の二重膜構造のため脂分となじみやすく、プラスチックにトラップされる)との親和力が高いので、ウイルスがトラップされるからです。コットンですとコロナウイルス単独ではトラップされにくいですが、ウイルスは単独で飛ぶよりも、飛沫や水分と一緒に飛んでくるので、その場合は防げると思います。
プラスチックポリマーにはいろいろな種類があります。どうしてもプラスチックを使う必要がある用途、例えば防水や撥水が必要とか、透明でないといけないところには使わざるを得ません。その場合もなるべく劣化しにくいものを使うことが、いま国連のプラスチック条約締結の会議で話し合われています。どういったポリマーをまず使用禁止にすべきか、まだ使ってもよいものはどれかについても議論中です。
ポリプロピレンはもっとも劣化しやすいプラスチックです。それを人が吸い込むことについても海外の研究論文がいくつか出ていたと思います。
浅井 かなり細かいプラスチック粒子が肺に入るわけですね。
◇消化器系と循環器系
高田 魚介類を食べた場合は消化器系に入りますから、ある程度の大きさの微細プラスチックは排泄されます。細胞膜を通過するほど小さいサイズの場合、一部は血流に乗って循環器系に入りますが、ある程度の大きさであればやはり体外に出てしまいます。中国の研究論文で糞便中からマイクロプラスチックを検出したとの報告があります(“Analysis of Microplastics in Human Feces Reveals a Correlation between Fecal Microplastics and Inflammatory Bowel Disease Status” Zehua Yan et al, Environ. Sci. Technol. 2022, 56, 1, 414–421)。これはマイクロプラスチックが人体に取りこまれている事実を表していますが、取りこんでも糞便として出ることも示しています。
糞便として排出されるまでの間、マイクロプラスチックは生体にとって異物ですから、体内で免疫反応が起こり、炎症が残ることがあります。例えば炎症性大腸炎など腸疾患の患者さんのほうが、糞便中のマイクロプラスチックの量がそうでない人よりも多いと同じ論文で報告されています。
肺の場合は循環器系ですから、残念ながらそういう排泄機能がありませんので、一度体内に入ればたまる可能性があります。細かい粒子の場合はリンパに出す機構が人体にはあるようですが、消化系の排泄ほど有効な機構ではないようです。
浅井 肺がんを引きおこす可能性はありますか。
高田 どういう病気につながるかはまだわかっていません。
◇私たちにできる身近なとりくみ
浅井 最後に、私たち一般人がリスクを避けるにはどうすればいいでしょうか。あまり難しいことは無理なので、まずはペットボトルを使わないことですか。
高田 プラスチックを使わないようにする身近なとりくみを、次のようにまとめましたのでぜひ参考になさってください。
出典:高田秀重教授
浅井 環境問題は私たち全員の課題です。次世代のことを考えるなら、プラスチックはなるべく使用せず、天然素材のものを使いたいですね。
高田 はい。食事でも、どうしてもインスタントラーメンを食べたいのであれば、カップ麺ではなく袋に入ったインスタント麺を陶器のどんぶりに入れてお湯をかけるほうがいいと思います。
浅井 飲み物がペットボトルしか売っていない場合、なるべく早く他の容器に移したほうがいいですか。
高田 プラスチック製品は作った瞬間から劣化が始まっていますから、すでにマイクロプラスチックが入っています。ただし繰り返し使うことでその量は増えます。野外に放置したり光の当たる場所に置いておくとさらに劣化が進むので、使う場合はできるだけ早めに水筒など別の容器に移したほうがいいですね。
浅井 先生はミネラルウォーターをどのように入手されていますか。
高田 ミネラルウォーターを買うことはあまりないですが、買うならばガラス瓶のものですね。私の所属大学では2019年に浄水機能付きの給水器をキャンパス内に十数台導入すると同時に、学内の自販機からペットボトルをなくしました。
提供:東京農工大学広報室
浅井 まず自分たちからとりくむことが大事ですが、次に経済システムを変えるには行政や政府が動かないといけません。次世代への責任を果たすために、私たちが今後、国を動かすにはどうすべきでしょうか? 先生は行政のさまざまな委員会に入ってらっしゃいますね。
高田 委員会でさまざまな意見を行政に伝えています。特にプラスチックに関係する化学物質のリスクや、そうした物質の管理について意見しているところです。
浅井 最後は政治家が動かないといけません。
高田 そこで重要なのが、いま国連で議論されているプラスチック条約です。健康を守る観点からプラスチック全般の使用を削減し、添加剤への直接・間接の曝露を減らしていく必要があるとして、2022年3月の国連環境総会で法的拘束力をもつ国際条約の交渉を開始する決議が行われ、今年(2024年)中の制定に向けて、流れがほぼ固まってきました。この条約が制定されれば、日本も従う義務が生じます。
浅井 日本は外圧頼みで動く傾向があります。国外からの外圧を利用して、いい方向に変わっていけばいいですね。
高田 ですから、いま熱心な日本の官庁は外務省です。私の研究室にも外務省の大使級の方が、プラスチック問題についてヒアリングに来ました。プラスチック条約の流れに対応しなければ国際的な批判を浴び、時代遅れになってしまうからでしょう。
いま国連で議論しているプラスチック条約には三つの目玉政策があります。一つは先ほど話した拡大生産者責任です。第二に、化学物質として懸念される素材を指定して排除することです。第三に、同じ素材、同じポリマーを使う場合でも、製品の作り方や製品の用途によってマイクロプラスチックになりやすいものとそうでないものがあるため、 どういう製品をやめて、どれを現時点では残すべきか、決めるための議論をしています。
例えば今年3月の国連主催の会議では、どんなポリマーが高リスクなのか、私たち研究者に意見を求められ、ポリプロピレンは劣化しやすい懸念があり、その点ではポリエチレンがまだマシですといった話をしました。
また塩ビはかなり添加剤が多いので、これも規制した方がいいという流れになっています。実際に塩ビ規制は日本でもヨーロッパでもすでに行われていて、子供用のおもちゃには塩ビを使わないようになっていますが、それをもっと拡大すべきだと意見しています。
発泡スチロールも非常に劣化しやすいのです。オーストラリアやフランスでは発泡スチロールをある程度規制していて、 一定の成功事例があるようですので、それを参考に世界的にどうするか、考えていく時期です。
浅井 日本ではまだたくさん使っていますから、遅れていますね。
高田 拡大生産者責任については、ヨーロッパだけでなく、リサイクルの体制が逆に整っていない国で導入が進んでいます。例えばフィリピンではかなり進んでいるとの成功事例がその会議で紹介されていました。
日本はそれなりにリサイクル制度が発達していますから、利害関係が生まれていて、拡大生産者責任の議論が進まない側面もあります。他にもレジ袋の規制など、途上国のほうが熱心な場合があり、そもそもリサイクルの体制が整っていませんので、蛇口をしめて生産を止めないといけないという意識になりやすいのです。
日本は蛇口をしめるのではなく、リサイクルで何とかしようという姿勢です。リサイクルにはコストもエネルギーもかかり、温暖化が加速してしまう可能性がありますので、やはり蛇口をしめて、プラスチックの生産量自体を減らしていくべきだと思います。
浅井 たいへん役に立つお話、ありがとうございました。
高田秀重教授(左)とインタビューする浅井隆氏 東京農工大学の高田教授研究室で
(取材・構成 編集部)
高田秀重(たかだ・ひでしげ)
東京農工大学農学部教授。1959年生まれ。東京都立大学大学院理学研究科博士課程中退。理学博士。著書『環境汚染化学』共著(丸善出版社、2015)ほか