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的外れな議論続く政治資金問題  政党のガバナンス確立を 構想日本、加藤秀樹代表に聞く

政治・外交

 政治への信頼を揺るがせている政治資金問題。先の国会は政治資金規正法の改正で決着したが、政策シンクタンク・構想日本の加藤秀樹代表は、「一連の議論は全く的外れだった」と指摘する。問題の本質は何か、解決に必要な「政党のガバナンス(自己統治能力)」とは。長年にわたり中央・地方政治への改革提言を続けてきた加藤氏に聞いた。

加藤秀樹
◇政治家、メディアの議論は的外れ

 今国会の議論はあまり関心がありませんでした。またもや的をはずした議論しかやってないので、論評に値しません。あえて言えば、改正法の施行が2026年1月、なんでそんなに時間がかかるのか。政策活動費の公開が10年後! その感覚が非常識というより異常です。

 私たち構想日本は政治資金の問題で「政党のガバナンス(自己統治能力)確立」を求める提言を5月に発表しています。実は提言は十数年前に出したものと内容はほぼ同じです。当時は小沢一郎氏の政治資金管理団体「陸山会」の事件で元秘書が逮捕、起訴されたころです。問題点は当時と変わっておらず、解決策も同じです。

 問題の本質は、資金の受け手である政治家、政治団体、政党の管理のずさんさにあります。ところが、どの党の改革案も資金の出し手や金額の制限が中心になっていて、本質に届いていません。

 政治資金規正法は議員立法ですから、作るのも変えるのも議員です。しかし、現職議員が、自分が勝ち上がってきた条件を変えようとは思わないでしょう。政治の世界の外からプレッシャーをかけないと変わらないのです。

 与野党と同じように、マスメディアも問題の本質を指摘していません。政治家が「パーティーが問題だ、こうしよう」と言うと、新聞もテレビのニュースや解説もその土俵に乗ってああだこうだ言うだけです。いやいや、問題はそこにはないでしょう、というのが、私たちの提言です。

 これまでは政治が劣化しても平和でそこそこ豊かだったので国民みんなが油断していたんです。政治のことで時間をとられるのは損だというわけです。だから私たちが問題点を指摘しなければならない。

◇根本は収入と支出の公開


図−1
加藤氏の日本記者クラブでの会見資料より(2024年5月13日)

 根本は、お金の出入りを全部さらけ出すことです。それをインターネットで公開し世の中がきちんとチェックする。その2つに尽きます。そうすれば、誰がどんなに沢山のお金を出してもいい。そのルールの上で、一つの会社、一人の人の金額を制限しようとか、こういう提供先からはやめよう、というオプションが出てきます。

 そういったことをちゃんとするには、会社でいうコーポレートガバナンス、政党のガバナンスが重要です。会社では取締役が何を決めるかの手続きがあり、情報公開があり、業績、財務については損益計算書と貸借対照表があります。ところが、今の政治資金規正法では収支報告書だけを出せばよく、しかもその内容は不十分です。まず、資産の全体が見えません。証券や土地は書く必要がありますが、普通預金は書く必要がない。普通預金が資産に含まれていないというのは民間では考えられません。会社、公益法人、NPOなどすべてに義務付けられている賃借対照表と資金の具体的な使途を公表し、それらに対する本来の監査を義務付ける必要があります。毎年1200億円もの税金(政党交付金や歳費など)と非課税の資金を使い、公益性が高いはずの政党や政治家の資金が「ブラックボックス」の中にある状況です。世の中みんながやっていることを、政党や政治家がやらなくていいという特別扱いはおかしい。

◇財布の一本化で抜け道をなくす


総務省政治資金課「政治資金規正法のあらまし」より構想日本作成
総務省政治資金課「政治資金規正法のあらまし」より構想日本作成

 政治家の多くは政治団体をたくさん持っています。1人で10も持っている政治家もいます。政党支部も、実質は議員の政治団体です。そして政治団体の間では資金を自由に移動できる。その全体像も資金の動きも外から見えない。政治家の活動も金の動きもブラックボックスになっているわけです。政党支部に寄付をして還付金を受ける事例がありましたが、これも同じ。明らかに抜け道です。
会社で言えば親会社と子会社の連結決算のように政治資金を管理する財布を1つにする、財布が複数ある場合は会社同様に連結決算にする、いずれにせよ財布の一本化が必須です。これ抜きで政治資金の透明化はあり得ません。
資金管理団体の相続という問題もあります。我々の預貯金の場合、相続財産のときは課税されるわけですが、政治家ではそれがない。そもそも政治団体に来たお金を家族が引き継ぐことがおかしいのです。

◇外部監査の義務化を

 収支報告書の監査は義務づけられてはいますが、この「監査」とはあくまでも形式が整っていることをチェックするだけです。さらに、収支報告書の内容は政治資金の出入りが中心で、貸借対照表の作成が義務づけられていないことで分かるように、監査の対象自体が不十分。お金の使途は問題にしないことになっていますが、本来、使途こそが問題なのです。例えば政策活動費とは何なのか。令和4年分で自民党の茂木俊充幹事長には月に平均4000万円で年に10億円弱支給されています。茂木さん個人のポケットに入っているわけではなく、多くが議員経由で選挙に使われているのだと思います。

 政治的にそれらを明らかにしたくない気持ちは分かりますが、一定のルールを決めて、その使い方を国民に見せることが民主主義の基本でしょう。

◇政党法で政党ガバナンスの明確化を
上記のようなことを本当に機能させるにはどうすればいいか。政治資金規正法の中だけでは不十分なのです。そこをきちんとするためには政党のガバナンスを明確に定義することが必要であり、それをするのが政党法ということで提案しているわけです。


加藤氏の日本記者クラブでの会見資料より(2024年5月13日)

 コーポレートガバナンスという言葉を日常的に聞くようになりました。

 会社については会社法などでそれが決められています。そして、非上場から上場、東証上場の場合はスタンダードからプライムと社会に対する影響が大きくなるにつれて、ガバナンスのルールも厳しくなります。一般法人や公益法人も同様です。ところが、社会に対する影響の大きさ、公益性が最も高いはずの政党にガバナンスのルールがないのは本来おかしいのです。

 政党法で明確化するルールは、役員の権限と責任、役員の選任プロセス、党と議員・党員の関係、政党支部のあり方などです。法律に基づいて党則など党運営ルールを定めていく必要があります。さらに、党の設立、解散、合併、資産の取り扱いについてもルールが必要です。

 政党法という名前の法律はドイツや韓国などが知られていますが、そう多くはありません。しかし、政党のガバナンスについてのルールは、多くの国で定められています。一部の政治家やワケ知り顔の評論家は、政治家や政党の活動をしばるべきでないといったことを言いますが、それは全く的外れの議論です。ガバナンスとは自分のマネジメント、自分をどう律するかということで活動内容を制限しようというものではないからです。それは会社も一般、公益法人も同じことです。

◇政党助成金配分を野党有利に

 私たちは政党助成金について、野党に有利な配分という提言をしています。日本の場合は政党助成金の総額を議席数と得票数で比例配分していますが、勝った方が常に圧倒的に有利になります。ところが西欧などでは政党助成はむしろ与野党間のバランスを取るために野党に手厚く配分する国が多くあります。選挙に勝つと、与党は政府を構成するわけですから、役人官僚スタッフとして使えるわけです。ところが、野党はそうはいきません。イギリスでは野党のシャドウキャビネットの閣僚に、与党の閣僚ほどではないにせよ国から手当が出たり官僚との接触を認めたりする措置をとっています。野党というのはいざというときの与党のスペアだという考え方があるからです。

 政治は党の利益でも議員の利益でもなく、国民のためにやっているわけですから、税金でのサポートは国民の利益にならないといけません。野党は与党に比べ官僚機構を使えないとか、資金が集まらないとか、不利な点が多くあります。そこで、野党を底上げするために税金を使うのは、政治全体のためにも健全なことです。

 その点、党益より国益を優先するという点で、西欧の政党の方が日本の政党より良識があると感じます。
(取材・構成 冠木雅夫)

【略歴】
加藤秀樹(かとう・ひでき)
大蔵省で勤務後、1997年「民」の立場から政策を立案・提言、実現するため、非営利独立のシンクタンク「構想日本」を設立。慶應義塾大学総合政策学部教授、東京財団会長、内閣府行政刷新会議議員兼事務局長、京都大学特任教授などを務めた。近著に『ツルツル世界とザラザラ世界 世界二制度のすすめ』 (Speedy Books)。加藤秀樹

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