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牧原出氏インタビュー 古い政治の終わりと改革の課題(全2回)
第1回 政治資金と新しい政党への道

政治・外交

 古い政治が終わりを迎えている。今回の政治資金問題は、驚くほど近代化が遅れている日本の政治を白日の元にさらし、国民意識との乖離をはっきりさせたという。政治学者の牧原出さんに、問題のありかと今後の政治改革の課題を聞いた。

第1回 政治資金と新しい政党への道

◇近代化が遅れていた自民党

 冷戦が終わり、コロナ禍も終わって、世界では凍結されてきた問題が一気に噴き出してきています。日本で噴出したのは、2012年に第2次安倍政権で構築された自民党一強の仕組みの中で凍結されてきた問題の一つ、安倍派の政治資金問題でした。戦前から引っ張っている「古い政治」の宿痾(しゅくあ)であり、高度経済成長以来「経済一流 政治三流」と言われてきた問題が改めて吹き出てきました。消費税が10%となり、インボイス導入もあり、そうした政治資金の運営がもはや容認できないという国民の意識がはっきりしてきました。一般企業で昔あった「役得」が許されない社会になっているのに、政治の世界だけ近代化が遅れているのです。

 しかも、今後も続く少子高齢化に向けて、消費税や社会保険料を上げていかなければいけない。消費税率15%あるいは20%が不可避になるかもしれないのに、今の自民党には「上げる資格などない」とみなされているのだと思います。第2次安倍政権は2012年の民主党最後の野田政権時の「社会保障と税の一体改革」の3党合意に縛られて消費税率を上げてきました。3党合意体制は社会保障のために国民の負担を増やしながら政治を運営していく体制でしたが、自民党にはもはやその仕組みを担えなくなって来ています。

 今回の政治資金規正法の改正はまずは第一歩を踏み出したということが言えるでしょう。特に(付則に記された)政治資金の使途をチェックする第三者機関の中身を詰めることが重要です。第三者機関は今回議論になっていない論点を考えていく取っ掛かりになるという意味でも評価していいと思います。ただし、改革がこれで終わりということでは全くありません。

 21世紀はデジタル化によって情報を共有し透明化が進む時代です。それに見合った政治社会をどう作るかが課題になります。ところが、政治家だけがそれを意識していないのです。政治資金の報告で、デジタル化がダメというのは信じられない感性です。非合理的な、無駄な、不透明なお金のやり取りはやめてほしいという時代の風潮の真逆の姿勢なのです。

 今回の問題は、要するに安倍派の時代が終わったということですが、安倍派とともに宏池会(岸田派)も終わるでしょう。つまり(小泉政権時代の)経世会(旧竹下派)支配打倒から始まって清和会(安倍派)、宏池会と歴史の長い主要派閥が実質終焉を迎えるわけです。自民党にとって大きな節目です。日本政治が劇的に変わる。古い自民党を解体する。そうした最終的な清算を求められているのです。

◇カギとなる第三者機関

 第三者機関が重要なのは、今回の問題の根源が政治倫理、モラルの問題ではなくて、お金の問題だということをはっきりさせる意味があるからです。政治資金規正法での起訴は3000万円以上を基準にしたと言われていますが、それ以下では何のとがめもないというのでは、国民の納得を得られません。やはり、お金の問題に対してはお金のペナルティにした方がいいのです。古いタイプの政治学者、政治ウォッチャーは、これはリクルート事件以来の問題の繰り返しだと言いますが、私はそれよりもむしろ「消えた年金問題」に似ていると思います。自分たちのお金がうまく使われていないことへの不満です。「刑務所に行かなくてもいいから、罰金は払ってほしい、課税していないなら課税されるべきだ」という感覚だと思います。

 新しい形の政党間対立になっていくとすると、それに見合った統治構造改革が必要です。政治資金において大きいのは第三者機関で、これがこの後に続く第3次統治構造改革の最初の大きな関門です。それがないと政治資金規正法改正はうまくいきません。第三者機関が国民に対して透明化し説明責任を持つ。政治家、政党が説明責任を全部持つのは実際問題として無理なのです。

 こうした機関が動かないと、政治家へのバッシングはますます強まっていきます。エッフェル塔前の写真で議員が叩かれましたが、公費を使うことへの市民の目は厳しくなっています。

 問題は誰が第三者機関を動かすかです。できるとしたら総務省の選挙課ですが、今まで表に出ないで、政治家同士でやっていた問題を引き受けられるかどうか。本来は国会に置くのがいいですが、衆参両院に一つずつ置くのかどうかなど制度設計上難しいでしょう。内閣府というのが令和臨調(令和国民会議)の案ですが、いずれにせよ選挙のプロである総務省の人が関わるのだと思います。

◇政策本位で競争する政党に

 政治家はやはり政策で行くしかありません。政策力を上げることが非常に大事になってきますが、それには資金が必要になります。各党に、特に有力政党がシンクタンクを作るために、それなりの政党交付金を出すことを考えてもいいと思います。地方議員に選挙で動いてもらうとか、少額のパーティーを重ねてお金を集めるというような内向きの論理ではなく、グローバル競争に立ち向かう構想が出てくる政党が必要になってきます。透明性の中で戦略、構想力を向上させなければいけないのです。

 野党の場合は与党をめざすために政策構想能力をどう高めるかが課題になります。与党になるということは200人以上の議員になる必要があるわけですから。反原発や安保法制反対を主張する5%の声を聞いているだけでは限界があります。与党になるためには少なくとも40%、45%の支持は取って、当初の5%は捨てるぐらいの、国民の中のセンターを取る戦略が必要でしょう。野党が与党になるためのガバナンスがなければいけない。また、安全保障政策など与党との政策の連続性がキモになってきます。

 私は「自民党の民主党(立憲民主党)化」という言い方をしますが、自民党は(2009年に政権を取った)民主党のようにならざるを得ないと思います。ガバナンスのない政党同士、つまり民主党対民主党という状況になるのではないでしょうか。そうなると、自民党は右派バネが強くなり憲法改正や靖国などの問題を声高に言う人たちの力が強くなりそうです。それは安保法制反対を看板にする立憲民主党と同じ現象です。本来は多くの国民が位置するセンターの部分を取っていくことが必要なのです。例えば自民党が夫婦別姓を受け入れ、立憲民主党が安全保障にきちんと取り組むということです。国家戦略の問題としての安全保障にどこまでリアルに向き合えるかが問われていると思います。

 政党のガバナンスには党職員の存在が重要です。職員をどうやって安定的に雇用するか。自民党は多数の職員を抱えていて、野党は少ないですが、野党になってもある程度職員の雇用を政党交付金で面倒をみてもいいかもしれません。身分を保障しながら公共部門をしっかり作っていく。しかし、現状は自民党のワーキンググループも最終案以外の関連のペーパーをほとんど公開しておらず、何を議論していたのかわからない状態です。野党の方も政権構想をマニフェストにする力が弱い。日本の政党は全体にそういうところにお金を使ってこなかったのです。共産党の公約は、実現可能性は別として、しっかり調べていて文書として立派です。政治資金に関しては今回の公明党案もきちんとしたものでした。

 政策本位の競争となると、政党のシンクタンク、調査部門の役割が大事になってきます。将来的には、公務員と民間シンクタンクと政党の調査部門が回転ドア(出入りを繰り返す仕組み)になってもいいはずです。

 融通無碍が自民党だとか言われて来ましたが、それは「政治三流」を野放しにしてきた言い訳としか思えません。

(取材・構成 冠木雅夫)

【略歴】
牧原 出(まきはら・いづる)
 東京大学先端科学技術研究センター教授(行政学、日本政治史)。
1967年生まれ。東京大学法学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス客員研究員、東北大学大学院教授を経て2013年より現職。著書に『 内閣政治と「大蔵省支配」』(中央公論新社)、『崩れる政治を立て直す』(講談社)、『田中耕太郎』(中央公論新社)など。
牧原 出

<第2回 政権交代を前提とした政治改革>に続く

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