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日本の財政破綻と国民生活(全2回)
第2回 年金・社会保障はどうなる
浅井隆(経済ジャーナリスト)

経済・財政

◇財政問題は国家安全保障問題
 私の親しい財政学者が「最近、身の毛がよだつ体験をした」というので聞いてみると、駐日ロシア大使館員が日本の財政学者数人にアプローチして、日本が財政破綻する条件について情報収集しているそうです。学者仲間からは「どうも中国と情報を共有しているらしい」、国際紛争があれば中国とロシアが組んで日本財政を潰す研究を進めている可能性があるというのです。中国は日本国債をかなり保有していますから一挙に売って通貨と国債と株のトリプル安にして、利払い費を膨張させて日本の財政を潰せばもはや戦争どころではなくなり、中露に降伏するというシナリオです。国家破産はとても恐ろしいことで、ここまで来れば日本の財政問題は国家の安全保障に直結すると、その財政学者は危惧していました。

◇年金の大幅カット ⇒50%カット
 日本は世界一のスピードで高齢化して、財政負担が重くなっています。財政が破綻すれば年金の大幅カットをするしかありません。年金が半分になるのは想定の範囲内かもしれませんが、そのときかなりのインフレになっていれば、例えばいま年金が月20万円の人は10万円にされてしまうだけでなく、その10万円の価値もどんどん目減りしてしまいます。

 ロシアがまさにそうでした。ソ連が崩壊してロシアになったあとの10年間は大混乱で、最初にハイパーインフレが起きて国家財政が崩壊したために、年金は紙キレ同然となりました。わずかな年金しかもらえず、しかも7000%のインフレ、70倍の物価高でルーブルの価値はどんどん目減りし、軍人を含む公務員も同じ苦境に立たされたことは前回お話した通りです。

◇社会保障、介護、医療の大幅カット ⇒予算50%カット
 庶民にとり一番恐ろしいのは、社会保障や介護・医療費の大幅カットです。ただでさえ日本の社会保障給付費は膨張を続け、予算はもうギリギリです。例えばステージⅣのがん患者で入院治療が必要なとき、予算が50%カットされて面倒をみてもらえなくなれば、弱者は死ぬしかありません。ロシアはじめ破産した国では実際にそうなりました。

 日本の債務GDP比はすでに250%を超えて持続不可能なのに、「日本の財政は破綻していない、財務省が財政均衡主義で借金を止めて国民を苦しめようとしている」という経済アナリストの言葉を信じる人が大勢います。このままバラマキを放置するのはまともな神経ではありません。

 国債の利払い費が本格的に膨張すればすぐに財政は行き詰まり、予算が組めなくなります。そうなれば市場が国債を売り潰し、とんでもない円安になります。借金ほど怖いものはありません。福沢諭吉は明治が生んだ天才的人物でしたが、彼は「暗殺は別にしてこの世で一番怖いのは借金だ」という言葉を残しました。この経済の根本原則がわからない人が増えたのも戦後教育の失敗でしょう。

 日本人の白痴化をアメリカが仕組んだと言う人がいます。確かにアメリカが日本を弱体化しようとしたのは事実ですが、バラマキに関しては日本人が自ら転んだとしか言いようがありません。この国はショックが来るまで変わらない、財政破綻してぐちゃぐちゃにならないと本当に反省することはないのだと私は諦めています。

◇金(ゴールド)は没収、外貨預金は非常に不利なレートで強制的に円と交換 ⇒1ドル=500円のとき100円で
 国家は国民が稼いだ利益から所得税や法人税を取りますが、儲からない法人や稼いでいない人からは取れません。ただし消費税は誰でも消費すれば取れますから、非常に重要な財源です。ところが自民党から共産党まで全政党が消費税増税に反対しています。バラマキのはてに財源のないままバラマキを続けようとして財政が破綻すれば、徳政令を断行し国家の借金と相殺せざるをえません。アメリカは絶対に助けてくれませんし、日本の予算規模ですとIMFでさえ助けることができません。すると結局、私たち国民の財産と相殺するしかないのです。

 まず金(ゴールド)は国に没収されます。日本では過去に金の没収の例はないと思っているでしょうが違います。敗戦後にGHQの指令で米軍が田舎まで行って日本人の家から金銀を没収したのです。その事実はもう誰も覚えていません。アメリカ本国では大恐慌の後、1930年代にルーズベルト大統領が実施しています。97年に通貨危機になった韓国では金を没収はしませんでしたが国民に自発的に供出させました。

 外貨預金も非常に不利なレートで強制的に円と交換させられます。破綻国家ではよくあることで、例えば1ドル500円のとき100円で交換させると、政府は差額の400円分を実質的な税金として徴収することができるのです。

◇財産税 ⇒最大90% 
 そして次にもっと怖い財産税が待っています。これも戦後すでに行われた実績があり、今の価値に換算して資産25億円以上の人は90%を国に持っていかれました。大地主や華族・皇族が主にやられたので、庶民には関係ないと思うかもしれませんが、東京にちょっとした土地と家を持ち、死亡保険金で1億や2億もらえる人なら財産は4億から5億になり、昭和21年の税率を当てはめると50%が課税される計算です。

 しかも財産税が導入されるときは前回お話したように預金封鎖されていますから、貯金をおろせません。昭和21年のとき、財産税を取られたあとの預金はその後2年半もおろせないまま、インフレが進んだ結果、やっとおろせたとき価値は30分の1になっていました。1億円が実質300万円の価値になり、1000万円なら30万円ですから、ゼロと同じです。

◇固定資産税 ⇒現行の5~10倍へ
 そして固定資産税の大幅アップはギリシャで実際に行われました。私は経済危機のアテネで高級住宅街の家々がすべて売りに出ているのを目撃しました。外国人ですら買わないのは、土地と家で3億円の評価なら毎年2000~3000万円の固定資産税がかかるからです。しかも凄まじいことに、固定資産税を払えないと水道や電気を止めてしまうのです。その家で生活している人々が生きていけなくなっても税金を取るわけです。

 国家権力は普段は私たちを守る存在ですが、破産に直面すると自己保存の本能を発揮して、国民を犠牲にして借金を帳消しにすることがよくわかりました。

◇贅沢税 車、高級ホテル宿泊
 贅沢税は高級車や高級ホテルの宿泊にかかる税です。破綻国家ではありませんが、例えばシンガポールでは国土が狭く車があまり増えると困るので、どんな車でも所有権を得るために、税金や所有権取得のお金も含めて日本の2・5倍から3倍のお金を支払う必要があります。日本で400万円の車が1000万円に、1500万円のベンツなら4000~4500万円になります。それでも見栄をはりたいシンガポール人は無理をして車を買っています。日本でも似たような税負担になるでしょう。

◇日本破綻後の資本規制は20年続く
 国家が破産すれば国民の財産を奪うしかなくなることを、私は世界中の破綻した国家を視察して身をもって認識しました。皆さんに深刻に受け止めていただくために、アイスランドの例を最後に挙げます。あまり知られていませんが2008年のリーマン・ショックで破綻した国です。好景気が続き、規制緩和で金融を自由化したわけですが、それが裏目に出ます。銀行が高金利で世界中に貸し出した資金の返済が、リーマン・ショックで滞りました。アイスランドはそれまで財政黒字で、赤字ではなかったのに金融危機ですべてが吹きとび、財政も立ち行かなくなる一種の国家破産状況になり、資本規制に踏み切ったのです。放置するとアイスランドから資本が全部逃げてしまい、どうしようもなくなるので引き出しを制限して、毎月約20万円しかおろせないようにしました。その期間が8年も続いたのです。

 世界一の借金をしている日本の場合、アイスランドと比較して資本規制の期間が20年間に達する可能性があります。いまは私たちの個人金融資産が2千兆円あるから市場は見逃していますが、財政が行き詰まれば、国は国民の財産で借金を相殺せざるを得なくなります。

 日本政府の借金はGDPの250%を超え、もうギリギリの状況です。バラマキをすぐやめ財政を健全化しないと、近い将来財政破綻がやってくるでしょう。怖いのはそのとき、事前の計画に基づいて粛々と破綻処理を行い、しっかり財政を再建していかないと、再び国策を誤る可能性が高いことです。第二次大戦前のドイツは第一次大戦の賠償金で国家が破綻した後、国民がおかしくなってしまいました。1923年に世界一のハイパーインフレを経験した後、アメリカの資本が入って経済はいったん持ち直したのに、今度はアメリカ発の世界恐慌が起きて一緒に潰れてしまったわけです。ハイパーインフレの6年後の大恐慌で世界一のデフレという両極端を経験して、財産をほとんど失い、中間層も全滅して正常な判断力を失った国民はヴェルサイユ体制を恨み、フランスにリベンジして叩き潰すと主張したヒトラーを熱狂的に支持するようになりました。

 ロシアでプーチンが支持されるようになったのも同じことで、ソ連崩壊後の国家破綻の恨みを西側にぶつけているわけです。そう考えれば、破綻後の日本にもおかしな指導者が出てきて、国民を煽動して戦争に向かおうと言い出すかもしれません。何としてもそれを防ぐために、私は早く日本復興(リバイバル)計画を作ろうと呼びかけています。

【略歴】
浅井 隆 (あさい・たかし)
 経済ジャーナリスト。1954年生まれ。早稲田大学政治経済学部中退後、毎日新聞社に入社。1994年に独立。1996年、新しい形態の21世紀型情報商社「第二海援隊」を設立。主な著書に『大不況サバイバル読本』(徳間書店)『ドルの正しい持ち方』(第二海援隊)など多数

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