御厨 貴氏インタビュー(全3回)
自民党・石破新総裁で日本はどうなる

両院議員総会で挨拶する石破茂・自民党新総裁(自民党ユーチューブチャンネルより)
過去最大の候補者9人が支持獲得を訴えてきた自民党総裁選の投開票が27日行われ、上位2人の決選投票によって新しい総裁に石破茂元幹事長が選出されました。岸田文雄首相(総裁)の任期満了に伴うもので、10月1日召集の臨時国会の首班指名選挙を経て新内閣を発足させることになります。戦前・戦後の日本政治史を研究し、政治家らのオーラル・ヒストリーに長年取り組んできた御厨貴・東大名誉教授に、日本の舵取りを委ねることになる次期首相の人物評とこれまでの政治手法、激しい三つ巴を繰り広げた高市早苗・経済安保担当相、小泉進次郎・元環境相との政策の違いや今後の政権運営の見通しなどを尋ねました。
第1回 総裁選を振り返って
御厨 貴(東京大学名誉教授)
◇石破さんの「辛勝」 党内融和が課題に
──決選投票の結果、石破さんが高市さんを破り、新総裁に当選しました。この結果をどう受け止めておられますか。
御厨 勝ったには勝ったけど、完全に党が二分された印象ですね。高市さんとの差はわずかじゃない。勝ったと言っても、辛勝なんだよ。つまり石破嫌いが半分はいるってことですよね。でも高市さんが勝つのではなくて、石破さんが勝った。この意味が大きい。あの人はこの10年間、安倍晋三政権にたてついて敗れ続けたわけですよ。最終的に5回目の挑戦となる今度も駄目だな、という感じがしていたんだけど、やっぱり勝ち抜いた、というのは運があったんだね。さらに振り返ってみれば、これだけ何度も総裁選挙で負け続けた挙句に、総裁になった人は、これまでの自民党総裁選ではいないはずです。

決選投票では、議員票がわずかに16票、都道府県票5票の合計21票の僅差だった(自民党ユーチューブチャンネルより)
その意味では、負け続けたけれども勝った、という彼のある種の運と、さらに今の日本が置かれた問題に対して、これだけはやらなくてはいけない、というものを、彼は持っているはずだからね。これまでの石破さんはいろいろすり合わせたり、党内調整なんかをしたりするのがあまり得意な人じゃなかった。だから負け続けたけれど、初めて「最後の戦い」に挑んで勝った総裁としてやってゆけることができたならば、彼が当選した意味はすごく大きい。自民党の歴史の中でも別の形になってゆくだろう、という気がします。
◇高市さんの処遇が課題に 「党内野党」になる可能性も
──「完全に党が二分された」と指摘されましたけれど、今後の党内融和は可能でしょうか。そのためにどうすればよろしいでしょうか。
御厨 まず党内融和は大変ですね。石破さんの場合、党内融和のためにも、今回の候補の中から、あるいは候補の外からでも良いんだけど、誰を幹事長にするかが最大のポイントになりますね。それが次の要になる。つまり石破さんとの距離感がどの程度ある人を選ぶのか。そうすることで、恐らく今後の党運営をはじめ、国会運営をどうやってゆくのかがおおよそ見えてきますからね。
──善戦した高市さんの処遇はどうなりますかね。
御厨 これが難しい。彼女に、思う存分にやってください、と言うことのできるポストがあるかだけど、そういうポストは必ず石破さんと対立しそうだからね。高市さんが、頑張ります、とか言って、勝手にやられたら困るし、単なるお飾りみたいなポストだったら絶対に彼女は断るしね。だから“党内野党”になる可能性もある。そこが融和になかなか結びつかないような状況につながりかねないので、難しいですね。
◇負け続けた石破さん 時代情勢が彼に有利に働いた
──派閥解消も受けて、今回の総裁選に出た候補者9人の主張、訴える政策を聞き比べていかがでしたか。各報道機関の事前調査の通り、石破さんと高市さん、小泉さんの三つ巴で、上位2人による決選投票は必至であると伝えられてきました。

多くの自民党国会議員が投開票の行方を見守った(自民党ユーチューブチャンネルより)
御厨 石破茂さんとは最近こそ会っていませんが、これまで僕が司会を務めたTBSテレビの『時事放談』時代(2007~2018年)から随分と付き合ってきました。彼は実に10年以上、自民党総裁「万年候補」になっていたんですよ。安倍さんに負け続けて、その後もなかなか勝てない状況が続き、20人の推薦を集めるのも大変だと言われていた。今回も相当大変だったようです。あまり国会議員の人気がない一方で、国民的な人気はある。万年候補に対して、国民がこの人に新鮮さを感じるのかなと思ったんですけど、やっぱり地力があったんですね。地方の人気はある。
彼は防衛や経済、財政の問題でも時折、勇み足的な発言をするんだけど、今や、その勇み足的なものがあった方が良いんじゃないかと。つまり自民党がこんな体たらくだったら、今までよりも踏み込んで、安全保障だけでなく地方創生もやってくれた方が良いと。特に裏金の問題では、石破さんだったらもう少し何とか踏み込んで処理をしてくれるんじゃないかという、そうした期待がずっと石破さんを支えているものだと思うんですよ。後は、石破さんは自分の政策を投げておいて、時々違うことを言うことがあるから、その癖が治っていればね、このまま行くのかな、という感じですね。
──担当デスクとしてご一緒した毎日新聞朝刊の長期連載「政界人物評論」では、当時の安倍首相、菅官房長官、岸田外相をはじめ、多くの有力政治家を取材しましたが、石破さんだけが2回も取り上げています。1度目の掲載が2013年4月11日付、2度目は10年前の14年11月13日付でした。総理総裁を目指すことへの期待を込めて書かれていましたね。
<政治の伝道師として、石破は常に国民目線で語らうフツーの感覚の持ち主だ。ただこれが多くの政治家には理解されない。(「己を見つめる伝道師──石破茂①」)
石破は業と運の定めに着目し、歴史上の総理を見ならいつつある。……先人政治家は、役職を選ばず与えられた役職に全力を尽くしたことから、総理への運命が開かれた。実は業と運の定めに導かれた政治家の数は多い。ただ彼らのほとんどはそれに気付くことなく勝機を逸した。……「伝道師」石破は、今気付きの道を歩み出すかに見える。彼がその道程の中で、異端を正当化し、理屈を精緻化して王手をかける一瞬を待ちたい。
(「言説の伝道師、変身か──石破茂②」。いずれも『政治の眼力 永田町「快人・怪物」列伝』文春新書所収)>
御厨 そうでしたね。それから10年経ってどうなったか、ということですけどね
──「岸田政権の継承」を訴えてきた石破さんですが、国内外の時代情勢が、石破総理誕生への道筋と繋がってきたような印象を受けます。安全保障環境、財政赤字問題、経済格差、少子高齢化、地方衰退など待ったなしの課題が山積しています。

決選投票で支持を訴える高市さん。イデオロギー色の「先鋭化」で、党内が二分する恐れも(自民党ユーチューブチャンネルより)
御厨 そうですね。石破さんの方へ有利に働いた感じはしますよね。選挙結果を振り返ると、状況的に石破さんに今度はやらせてみようかなという気持ちになるところがあったんだろうと思います。彼は自民党国会議員の中では人気がないですからね。法案を通したりするのは議員票によりますからね。その点で、本当に彼が言っていることが次々にできるかどうか、という点においては今後やや不安な面もあります
──危機的状況にある自民党の現状は、かつての「三角大福中」時代に重ね合わせると、田中角栄政権から引き継いだ三木武夫を想起しますが、いかがでしょう。
御厨 そうですね。三木さんでしょうね。必ずしもずうっと、党内主流を歩むことなく、自ら派閥をつくってはいたけれども、弱小であった三木さん。石破さんも田中派、竹下派の流れを汲む平成研究会を離脱し、自身の派閥をつくったけれども解散した。そういう点では完全に自民党傍流ではある。あの頃の三木さんは保守傍流と言われていましたからね。立場的には似ている。それは間違いありません。
◇高市さんのイデオロギー色に塗りつぶされることへの懸念
──1回目の投票でトップだった高市さんはどうでしたか。
御厨 高市さんは非常に主張がはっきりしている。防衛でも経済の問題でも、これっという主張ははっきりしていて、ブレることはない。特に彼女の場合は安倍さんの非常に右派的な体質をそのまま受け継いでいる。ただ、安倍さんはそうした体質を利用すれども、実現させるまではあまり至らなかった。つまり、自民党を右派イデオロギーで埋めてゆくことはしなかったけれども、どうも高市さんのこれまでの発言を聞いていたら、右派イデオロギー的な主張が非常に強いでしょ。だから言い過ぎることで、ちょっと過激だよね、という拒否感を生んで、従来の自民党の中では限界があるのではないかという懸念が当初あったんです。メリハリのある政策を打ち出しているけれども、それとは別にちょっとイデオロギー的に危ないんじゃないかな、と忌避される部分があるのではないかとね。
ところが、今回の総裁選では意外にそれがウケているわけでしょ。イデオロギー的な部分をはじめ、女性初の総理大臣になるということも含めて、彼女自身がずっと同じ主張を訴えていたにもかかわらず、時代が何となくそっちの方向へ向いてきて候補になった。
だから私が見ていて懸念するのは、高市さんがイデオロギーを持って自民党を変えようとしているとするならば、高市総裁誕生の暁には今までの自民党とは違ってくるかもしれない。これまでの自民党は右派集団から左派集団まで満遍なくあって、全部が何となく、ほんわかと許容されていました。それが一つの色で塗りつぶされてゆく感じになる可能性がある。1955年の保守合同、自民党結党時には、岸信介さんら右派的なイデオロギーで染まっていた空気があったけれども、“高市自民党”になった場合にははびこってくる可能性があった。そもそも自民党はイデオロギー政党でないところによって、多数を取ってきたわけです。しかし高市さんが総裁になることで、党の性格が変わってくる可能性があったわけです。

過去最大の9人が争った自民党総裁選の1回目の投票結果(自民党ユーチューブチャンネルより)
◇歴史認識問題……安倍政権時代よりも国際環境は一層厳しい
──担当の経済安保政策は、対中国が念頭にあるのは明らかでした。
御厨 彼女は未だに総理大臣になっても靖国神社への参拝は続けると明言していました。世界の政党の状況は右と左に分かれて中間がなくなり、イデオロギーに染まった政党が増えているけれども、これまでの日本はそうではなかった。何となくフワッと右向いて、左向いて、という政党が自民党だったわけです。その自民党の性格が高市さんによって、かなり大きく変わってしまうという危惧もあった印象ですね。
──靖国神社参拝で言えば、小泉政権では日中間で歴史認識問題が沸騰しましたし、安倍首相も2013年に参拝を強行して、中韓だけでなく、米国からも非難されました。
御厨 そういう懸念がありますよね。現在の日本がそういう強い調子に出ても、米国がかつてのように、ちょっと待ちなさいと自重を求めてくれるのか。あるいは、そうなってくれたら、むしろ良いというふうに中国などが考えるかもしれない。安倍政権時代よりも国際環境は流動的になって、戦争が起きかねないという空気が醸成されている時ですから、外交政策の判断は難しくなっています。
──小泉さんが掲げた「選択的夫婦別姓の実現」に対しても、高市さんは明確に反対していました。「婚姻前の氏の通称使用に関する法律案」を成立させることで、「ほぼ結婚で姓が変わることによる不便はなくなる」と主張していますが、どうお考えになりますか。
御厨 要するに、彼女が一番明確に右派の考え方を代弁していた。他の候補者は多少揺れていましたが、高市さんは揺れないんですよ。ダメなものはダメって言う。そのはっきりしているところが、保守層からウケるわけですね。その保守的な方向へ党内が偏ってゆく可能性があるのかな。あえてはっきり主張することは、体制側からすれば、そこまで言うの?という感じになるのが普通なんだけれど、逆に彼女にそれを託そうという層も出てきますからね。その点も注目に値するところでしょうね。

終盤の「失速」が響いて第3位に終わった小泉進次郎元環境相(中央・自民党ユーチューブチャンネルより)
◇自民党の「純化」路線で分裂の可能性も?
──「党内野党」になる可能性もある高市さんの今後どう行動してゆくでしょうか。
御厨 高市さんは力があることは間違いないけれども、やはりイデオロギー過剰になることが心配ですよね。問題は自民党をこのままにしておかないのではないかと。従来の自民党は派閥が多少崩れて、再編があったとしても、あまり変わらないような形で続いてきました。そう考えてみると、過剰にイデオロギー化するということは、もしかすると党を割るようなところまで行く可能性もある気がします。
──保守合同を果たした55年体制の反対方向へ進む可能性もあり得ると?
御厨 これまでは絶対、自民党は割れる可能性はないと思っていました。このイデオロギー化が進むことによって、宏池会系とか真ん中からリベラルと言われている人たちが、自民党にいることに耐え難くなって、分裂する可能性もあるかもしれない。
──イデオロギーを巡って「純化」路線が進むと?
御厨 そう、純化路線ですね。そういう意味で石破総裁でも、高市総裁でも波乱含みですね。
石破さんがやろうとする政策はなかなか通らないし、高市さんにしてもワァーと高く掲げたことについて周囲は手を叩くけれども、それに付いていけないよね、という人たちも出てくる可能性がある。
──「ノーサイド」といかずに、禍根が残ってしまう可能性も少なからずありますね。
御厨 過剰なイデオロギー的政策を前面に打ち出してくる可能性があります。そこで亀裂が生じる恐れがあるという気がします。
◇小泉さんの「若さ」「人気」だけでは駄目
──終盤、小泉さんの「失速」が報じられましたね。
御厨 これはもう仕方がないな。当初は政策の中身よりも第一に人気先行でしたね。しかし、2週間もの長い時間があって、表に出て話していたわけだけど、話しぶりがうまくなかった。こんなことしか言えないのか、という失望感です。学歴の有無ではない。総理・総裁になろうという人がこんな浅薄な答え方をするのかと、急速にみんな離れていってしまった。
小泉進次郎さんとはお会いしたこともありますけども、瞬間の反応はすごく良い人で、割とパッと答える。歯切れが良いんです。だから全体のきちんと政策構想を出して、しっかり説明されるのかなと思って見ていたんです。他の候補者はきちんとまとまった話をするのに、小泉さんの場合はあまり具体的内容が出てこないというか、何も答えになっていない話しぶりなので、人気の方も少し陰りが出てきたようでした。(43歳の)彼が「一番若いから」と若さを前面に推す動きも最初ありましたよね。年齢が若い人を担ぐことによって、自民党は次の総選挙を乗り切ろうとしたけれども、(街頭やメディアを通じて政策論争を聞くうちに、「進次郎構文」と揶揄されるなど、ちぐはぐな答弁ぶりに)どうも「若さ」だけでは駄目ではないかと、途中から国民の目にだいぶ映るようになった。小泉さんから、これは、というような政策上のヒットが出なくて、どんどんと他候補に(出る杭を)打たれていった感じがします。
同時に小泉さんは最初から国会議員票を集める力があると見られていたのに、(「プロジェクトK」と自称する40歳代の国会議員を中心とした)ブレーンがきちんと機能して、政策の方向性や党内情勢を的確に分析しているようには見えなかった。ちゃんとフォローしていれば、あんなふうに次から次へ、アレ?と首を傾げる発言をしなかったはずです。しっかりもの申すブレーンもいないとなると、小泉さんって一体何なんだろう?と、全国の党員だけでなく、国会議員もみんな踏み止まって考え直した、という感じでしょうかね。
◇「小泉パパ」とは似て非なる政策手法
──かたや小泉さんは党内で議論の割れる選択的夫婦別姓を実現させると、唐突に打ち出した他、ライドシェアの促進や労働法上求められている解雇規制の見直しを表明するなど、かつての小泉純一郎政権による自由主義的な規制緩和を彷彿とさせる主張を展開しました。
御厨 規制改革を突破するような事柄を訴えているけれども、父親の純一郎さんは要するに、経済財政、金融政策をどうするかは(内閣府特命担当相、郵政民営化担当相、総務相などを歴任した)竹中平蔵さんあたりに丸投げしていたでしょう。彼自身は最も得意とした郵政民営化だけに絞ってやったわけですよ。一方の進次郎さんがまずいのは、おいしいところだけをつまもうとしていた。つまもうとすると、みんなから反論が出るわけです。実はこうなんですよ、ときちんと反論すれば良いのに、さらに窮地に追い込まれるようなことを言ってしまうところがあって、先程どうもブレーンがいないんじゃないの?と言ったけれども、そのことなんですね。
小泉純一郎さんの場合はできないところはできないと、ブレーンを充分に使いこなしましたからね。だから「規制改革」自体が「小泉改革」と言われる所以ですよね。進次郎さんの場合は、それぞれのトピックスについて、皆が飛びつくようなところをちょんちょんと、つまみ食いしているだけです。それではなかなか付いていかないんじゃないか、という感じです。
──父親の方は、「大蔵族」であり、郵政相の他に厚生相など他分野にも取り組みました。
御厨 それに比べると、まだ勉強が足りないです。とにかく環境大臣を一回やっただけですからね。
◇「メッキ」がはがれてしまった小泉さん
──「50歳になるまでは総裁選に出るな」と諭したという父の教えは重いものがあったとも言えますね。
御厨 あったんです。小泉パパさんの方はそれなりにいろいろな経験をして、しかも旧大蔵、財務省とは喧嘩しなかったですからね。喧嘩しているように見えて、実は手を握っていたというような、そういう手段を用いたのだけれども、どうもジュニアの方はそれもできない、というところがだんだん透けて見えてきた。やっぱりちょっと心配ですよね。
──またしばらく修業を続けて出直すということになるのでしょうか。
御厨 ただ修業を続けるかどうかというのは難しいですよ。彼の場合、若くして「いずれは総理になるかもしれない」と言われて10年ぐらい経つわけですよ。いざ、10年経ってやってみたら化けの皮が剥がれたわけでしょ。
──メッキが剥がれてしまったということですね。
御厨 このメッキをもう一度塗り直すってのは相当難しいですよ。
◇「キングメーカー」を狙った「無派閥」菅元首相の評価
──そこで言いますと、今回の総裁選に小泉さんを担ぎ出した「親分」が菅義偉元首相であり、将来の「キングメーカー」と揶揄されていました。「無派閥」と言いながらも、派閥化しているとの指摘もありましたが、菅さんの政治行動はどうご覧になりましたか。
御厨 菅さんは「無派閥」がずっと売り物だったんですよね。自分の能力一本でずうっと政界を渡っていく。自分みたいなのは本当の政治家だという自負心があったと思うんです。ところがそれで一番痛い目を見たのは多分、菅さんの退陣の時ですよ(2021年9月3日の党役員会で総裁選出馬見送り表明、翌10月に退陣した)。無派閥でいたら最後は誰も助けてくれなくて、菅さんが“解散の……のと口走った瞬間に、総理・総裁を辞めさせる”という流れが出て、総裁選に出られない状況に追い込まれたでしょう。あれは自派閥を抱えていたら、もっと情報がちゃんと入りますからね。その後、彼が復権するためには「無派閥」を標榜しながら、何となくグルーピングして、新しい意味での“派閥”なのかもしれないけれども、そういう行動に出たことは間違いない。
今回、以前に「小石河(小泉、石破、河野)連合」と呼ばれた人たちの中から小泉さんを選んで集中した。そのことが、国民の目からしたら“新しい人を出しながら、その後ろに菅さんがいる”と映って、“また長老支配ですか”という状況になっています。ずうっとその手法でやってきた(副総理の)麻生太郎さんが今回どうなるか分かりませんけれども、麻生さんに代わる者として菅さんが出ようとしているならば、「長老支配」という、安倍政権が長く続いたが故に確立したシステムで、長老がやめない。
有能であったということもありますが、“また続くのか”という有権者の気持ちがありますから、多分、菅さんがその前面に出てくるというのはやっぱり好まれない。きちんと説明すべきなんですが、「長老支配」なんて説明のしようがないわけですよ。なぜ自分が出るのか、と説明しようにも、自分が出ると世の中が非常に良くなるとかなら良いけれども、そんなわけにはいかないし、要するに何となく黒幕的なイメージになりますからね。そういう意味では菅さんも計算違いなんじゃないか。小泉さんがどんどん失速していったことは、菅さんの失速にもつながってくる。総裁選の途中で、他に支持先を変えたとしても、やはりあまり良い印象を持たれないだろうという気がしますね。(自派を唯一維持し、総裁候補として河野太郎デジタル担当相を抱えた)麻生さんも今回何となく追い込まれていた感じがしましたね。
──しっかり結果を分析してみないと分かりませんが、事前の報道には、麻生さんは高市陣営に回るのではないか、という観測記事も出ていました。小泉さんや、麻生政権時代に公然と「麻生おろし」にかかった石破さんも麻生さんに支援を要請していました。
御厨 主張からすると、麻生さんと高市さんはあまり合わないような気がするけれどもね。
──元をたどれば、宏池会出身ですからね。
御厨 元々はね。
◇岸田首相は「キングメーカー」になりうるか
──「長老支配」で言うと、9月20日付の毎日新聞が「誰が『キングメーカー』に? 岸田・菅・麻生氏、腹の探り合い」と報じていました。記事によると、「菅さん、麻生さん、森(喜朗)さんの名前が出てくるような総裁選はやめなきゃならん」「長老支配はよくない」と、総裁選への不出馬を表明した岸田さんが周囲にこう漏らしたそうです。ただ、岸田さん自身もキングメーカーになりたいと考えてもおかしくないわけですが。
御厨 なるほど。それも岸田流なんだよ。恐らく彼もドリームチームをつくって、その上に乗っかりたいという思惑が見え見えです。ただね、結局彼が周辺に語ったとされることが、何となく理解できるのは、今度は自分が長老の地位に就こうとしたら、今までの長老は辞めない。辞めないで彼自身が長老になってゆくとしたら、現役(総理)の時と変わらないじゃないかと。現役の時も同じような連中と話をして、最終的には彼らとの話し合いがうまくいかなくなって、今回出馬することができなくなったわけだけど、仮に岸田さんが長老になったとしても、恐らく最初の“新長老”ですからね。他の長老連中が“まだ早い”とか言って威張っているような状況下では、(思い通りにできないため)やるのは嫌だな。という本音が出たんじゃないですかね。もう自民党の長老と呼ばれる人たちはこの際引いた方が良いと思う。全員ね。これが表に出てくると、何となく「黒幕政治」のイメージが強いですよ。
◇「長老支配」は「黒幕政治」に映る
──政界を引退された森元首相の影響力は依然強いと言われますね。
御厨 森さんに、出ない方がよろしいのでは、なんて言うと、怒られると思うけれども、まぁ、ご本人は善意のつもりで出てこられるんだな。政界が混乱すると、“やっぱり俺が出て行かないとまとまらないだろう”って。でもね、長老が出ていってまとまる政治というのは、かなり衰退した状態ですからね。やっぱり若い人に失敗しても良いから任せるぐらいの度量がないといけないんだけど、みんな“親切”なのね。何となく手を出したいというところですから。
◇候補者全員の処遇は無理
──過去最大の9人の候補者が名乗りを挙げたわけですが、新しい党役員人事、新内閣の布陣ではその人達は満遍なく起用されることになるでしょうか。かつて「三角大福中」時代には、派閥の領袖が皆入閣していました。
御厨 そうですね。しかし、強力な布陣だとか言うけれども、実力者をたくさん入れると、それぞれ皆勝手なことをやってしまい、総理が弱いと、足を引っ張られてしまうんですね。
だから、そこは余程考える必要がある。長期政権をつくるのだったら、今回は我慢してもらって、次の改造時にお願いするから、というような方便を使うなど時間差で人事をやるべきですね。全員が入ってしまうと、ポストが欲しい人は皆、総裁選に手を挙げれば必ずポストを得られるというふうな、おかしなことになってしまう。これはこれでいろいろと波紋が生じてしまう。新政権がきちんと事を成そうとして、実力者を重要なポストに配置することはあるとしても、全員を入れてしまうことはなかなか難しいですね。
(取材・構成 中澤雄大)
御厨 貴(みくりや・たかし)
東大名誉教授。1951年生まれ。東大法学部卒業、東大助手、東京都立大助教授・教授、政策研究大学院大学教授、東大教授、放送大学教授、青山学院大学特別招聘教授などを歴任。専門は政治史、オーラル・ヒストリー。TBSテレビ「時事放談」の司会も長年務めた。
主要著作に『明治国家形成と地方経営 1881~1890年』(東大出版会、1980年)、『政策の総合と権力 日本政治の戦前と戦後』(東大出版会、1996年、サントリー学芸賞)、『馬場恒吾の面目』(中央公論社、1997年、吉野作造賞)、『オーラル・ヒストリー 現代史のための口述記録』(中央公論新社、2002年)、『権力の館を歩く』(毎日新聞社、2010年)など多数。
