マネー侃々諤々 関 和馬

第4回 イシバノミクスへの期待値
2013年に始まった「アベノミクス」以降、ここ日本では菅義偉元首相の「スガノミクス」、岸田文雄前首相の「キシダノミクス」、さらには新総裁の「イシバノミクス」と、1980年代に米国のロナルド・レーガン大統領が行った経済政策「レーガノミクス」をもじったネーミングが付与されることが定着している。ちなみに先の自民党総裁選で敗れた高市早苗氏も自身の政策に「サナエノミクス」というフレーズを付けていた。
余談だが、本家のレーガノミクスは米国経済が1970年代から苦しめられていた不況下のインフレ(スタグフレーション)、さらには生産性向上の鈍化から再建に取り組むことを課題とし、主に以下の4つを推進した。
・歳出の大幅な削減(軍事費は例外)
・ 個人所得税の減税
・ 自由化を促す規制緩和
・ インフレ抑制
レーガノミクスに対する後世の評価は様々だが、1990年代からの米国はバブル崩壊に苦しむ日本とは対照的に見事な復活を遂げ、現在も世界1位の経済大国として君臨している。この勢いがこの先も続くかはわからないが、少なくとも過去30年間の米国経済は順風だったと言ってよい。
対する日本のアベノミクスは、頑固なデフレから脱却するために「大胆な金融緩和」、「機動的な財政出動」、「民間投資を推進する成長戦略」という“三本の矢”をわかりやすく掲げ、これ以降、日本経済には株高と円安が定着している。
このアベノミクスに対する論評も様々だが、少なくともこの度の総裁選ではアベノミクスに懐疑的な眼差しを向けていた石破茂氏が新総裁に就任した。しかし、どう考えても石破氏が極端に反アベノミクス的な経済政策を実行するのは難しい。
G7の中でも選挙の回数が多いここ日本では、首相の信条に関わらずそもそも選挙を意識した経済政策を掲げざるを得ないというバイアスが働く。しかも石破首相の党内における支持基盤は明らかに弱く、仮にこの選挙で勝ったとしても独自路線を打ち出せるかは未知数だ。
結局のところ、ここ日本では今後も長きにわたってリフレ的な政策が続く公算が強い。株価は強含み、円は趨勢的に売られることになるだろう。究極的には日銀は「ビハインド・ザ・カーブ」(金融政策において景気の過熱やインフレに遅れる形で利上げを実施してしまうリスク)に追い込まれ、日本経済を危機に晒してしまう可能性が高い。日本のリフレ政策の最大の問題はそこにある。
米国のレーガノミクスと違い、誰がやってもそこまで代わり映えしない日本のシュショウ(首相)ノミクスは、改革に重点を置いていないということもあり、良くも悪くもポピュリズム色が濃い。こうした傾向の経済政策は我々が思っているよりも長期的に日本を支配してゆくことだろう。
関 和馬(せき・かずま)
第二海援隊戦略経済研究所研究員。米中関係とグローバル・マクロを研究中。