一水四見 多角的に世界を見る
小倉孝保

米ニューヨークの国連本部前に掲げられたイスラエル国旗。
第5回 トランプ再登板とイスラエルの国連敵視
イスラエルの国連敵視が度を超している。もはや異常である。
イランや北朝鮮が同じことをすれば、米国は激しく非難するはずなのに、イスラエルには口先で注意する程度でとどめている。そんな中、トランプ前米大統領が返り咲きを決めた。国連にとって「冬の時代」が到来する。
イスラエルのネタニヤフ政権は11月4日、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の活動を認める協定の破棄を国連に通告した。「UNRWAスタッフには(イスラム組織)ハマスへの協力者がいる」などと主張している。
UNRWAは第1次中東戦争で大量のパレスチナ難民が生まれたことを受け、国連が設立した。1950年の活動開始から74年間、教育・医療サービスの提供などさまざまな難民支援をしてきた。
パレスチナ自治区ガザ地区では今、イスラエル軍とハマスとの戦闘で飢餓が起き、感染症の流行も懸念されている。UNRWAによる人道支援活動はイスラエル政府の協力がなければ継続が困難なため、人道状況のさらなる悪化が懸念される。
イスラエルの国連敵視はこれにとどまらない。隣国レバノンでは今年10月中旬、国連平和維持活動(PKO)部隊「国連レバノン暫定軍(UNIFIL)」の施設が繰り返し攻撃され、インドネシアやスリランカから派遣されていた兵士が負傷した。
加盟国によるPKO部隊への攻撃は前代未聞であり、国連憲章に反するのは明らかだ。さすがの米国もバイデン大統領がイスラエルに対し、攻撃を止めるよう求めた。
国連が設立されたのは第二次世界大戦が終結した直後の45年10月である。国際社会にはホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の反省と、ユダヤ人への同情が強かった。
国連総会は47年11月、パレスチナ分割決議を採択し、パレスチナの地にアラブ人とユダヤ人の2国家を建設するよう求めた。イスラエルが独立を宣言したのは翌年5月である。国連がユダヤ人国家建設に道を開いたのだ。
イスラエルは49年、国連に加盟する。初代外相のシャレットはこう宣言した。「国連憲章の義務を無条件に受け入れ、加盟国となった日からその義務を尊重する」
しかし、その後、イスラエルの国連不信は強まっていく。中東やアフリカの国々が相次いで加盟し、パレスチナ寄りなったと受け止めたのだ。
今回のガザ紛争でその不満が噴き出した。ネタニヤフ氏は国連を「軽蔑すべきもの」「反ユダヤ主義の悪意の沼」とののしった。国連大使は、国連総会にわざわざ小型シュレッダーを持ち込み、演壇で国連憲章の記された紙を細断してみせた。
イスラエル軍はUNRWAが運営する学校や難民キャンプを爆撃し、多数のスタッフを殺害している。国連職員の命がこれほど失われた紛争は過去に例がない。
そして先日、親イスラエル姿勢を鮮明にするトランプ前米大統領の再登板が決まった。来年1月の就任後、ネタニヤフ政権の国連敵視を容認するだけでなく、自らも国連批判を展開する可能性が強い。
実際、トランプ氏は多国間システムに関心が薄く、1期目には国連人権理事会や世界保健機関から離脱している。
国連は来年、創設から80年を迎える。イスラエルの国連大使が細断した憲章の前文にはこんな言葉が並ぶ。
<寛容を実行し、善良な隣人として互に平和に生活し……>
<国際の平和と安全を維持するために力を合わせ……>
トランプ、ネタニヤフ両氏にこそ、思い返してもらいたい理念である。
小倉孝保(おぐら・たかやす) 毎日新聞論説委員
1964年生まれ。毎日新聞カイロ、ニューヨーク、ロンドン特派員、外信部長などを経て現職。小学館ノンフィクション大賞などの受賞歴がある。
