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米次期大統領と国際政治(全2回)
 中西寛・京都大教授に聞く

政治・外交

第1回 トランプ再選と対外政策

 米国の大統領選でトランプ氏の返り咲きが決まり世界に激震が走っています。トランプ氏は第二次大戦後、長く国際秩序を主導してきた米国の役割を大きく変えると主張しています。これからの世界はどう動いていくのか。ウクライナ、中東の戦争の行方はどうなるのか。そして日本はどう対応すべきか。激動期の中でトランプ再登板へと動く世界の姿を、国際政治学者の中西寛・京都大教授に語ってもらいました。

◇米大統領選、トランプ勝利の意味

 今回の選挙は2016年、2020年に続いてトランプが3回目に戦う選挙でした。そのことは今のアメリカ政治の中心にいるのがトランプであることを示しています。今回の選挙で問われたのは、ハリスが勝つかどうかというよりもトランプが負けるかどうか、言い換えればトランプ的なものをアメリカ人が選択するかしないかでした。

共和党候補のドナルド・トランプ前大統領の当選を伝える主要紙

 トランプ的なものとは何を意味しているのか。トランプの考えの中核にあるのは、アメリカが担ってきた世界的な役割を根本的に見直したいということです。トランプの世界観では、アメリカのかつての繁栄は、アメリカが本来持つ国内的な力によるものでした。しかし第二次世界大戦後にアメリカがグローバルパワーになったことによって、アメリカは自身の力を浪費してしまった結果、かつての繁栄を失なってしまったというのがトランプの世界観だと思います。

◇バイデン政権時、トランプ無視できず

 今回の選挙は、過去2回の選挙とは違いました。2016年はトランプが何をするのかよく分かりませんでしたし、2020年は新型コロナという異常状況でした。有権者は今回、1期目のトランプがどういうことをしたかについて、よく知った上で、トランプを大統領候補に、さらに大統領に選んだということです。仮にトランプが負けていても有権者の半数近くがトランプを支持した以上、トランプ的なものを無視することはできなかったでしょう。

 実際、バイデン政権の下でもかなり多くの政策がトランプ政権から引き継がれていました。アフガニスタンからの撤退にしても、イスラエルとアラブ諸国のアブラハム合意にしても、対中政策や保護主義にしても、トランプ政権を引き継いだという言うべきものがかなりあります。

◇アメリカ主導の国際秩序に否定的

 トランプは西側同盟やアメリカ主導の国際秩序などに対して、より正面から否定的な政策をとると思います。1期目の政権では、いわゆる共和党国際主義者といわれている人々を外交、経済、安全保障などの分野で一定程度起用したのですが、トランプに言わせれば、1期目の最大の反省点が「裏切り者たちを起用してしまったこと」だといっています。彼らの多くが、トランプはファシストだというふうに非難しているので、トランプからすれば裏切り者でしょうから今回は起用されないでしょう。そういう意味では、第二期政権ではより本質的にトランプ的なものが前面に出るでしょう。外交政策については基本的にアメリカの国益に資するかどうかという基準で全て判断することになり、例えば軍事力については、アメリカという国が危険にさらされない限りは使わない、ということが基本になるだろうと思います。

◇東アジアの戦場派兵には消極的か

 台湾の問題についても、中国を最大のライバルと見ていることは間違いないので、中国に圧力をかけたり牽制したりすることはすると思います。しかし、中国が台湾に対して武力行使をした場合、アメリカが軍事的な反撃に出るかどうかというと、トランプ政権の下では、そうしない確率の方が高いのではないかと思います。実際、トランプは「中国が台湾に武力交渉すれば関税をかけて報復する」といった趣旨のことを言っています。お金の問題で解決しようというのは彼の発想で、アメリカ人を実際に中国、台湾、東アジアの戦場に投入するということが、いかに自分の政権を危うくするか、自分にとっての利益にならないかということは彼の感じていることです。多分、派兵をして戦うという対象は、アメリカ自身が危険にさらされている場合ということで、かなり限定されるのではないかなと思います。

◇ウクライナ戦争や中東への関与も縮小か

 ウクライナへの関与が変わる可能性は高いと思います。直ちに武器支援とかを止めることはないかもしれないけれども、無償で供与してきたものを有償の貸付にするようなことは十分起こるでしょうし、アメリカの負担を大幅に減らしてヨーロッパが主導する形で支援をするようにという形に方針を変えることも十分りうると思います。

キーウの独立広場

 中東についてはトランプの支持層を中心にイスラエル、ユダヤ人支持が強いので、イスラエルの行動に対して制約はこれまで以上に少なくなると思います。他方で、サウジアラビアとの関係は前政権期に重視していたので、サウジなどの言うことには一定の配慮をする可能性はあると思いますけれども、基本的にはイスラエルの行動を容認し、ガザやパレスナ人問題については、中東で決めたらいいことで、アメリカとしては関与せず、イスラエルを支持するだけという方針になるのではないかと思います。

◇気候変動。地球環境問題からの撤退は明確

 これは、もっとはっきりしていると思います。気候変動問題については、脱炭素化が一番排撃される政策になることは間違いないでしょう。化石燃料エネルギーをアメリカの国力の基礎に据えて、かつてのような自動車産業が隆盛を誇った時代のアメリカを取り戻すというのがトランプの理念でありイデオロギーです。実際は幻想かもしれませんが。EV支援などはどんどんやめていくだろうと思います。

 移民問題はやはりバイデン政権にとっては大きな負担になりました。アメリカ人一般の感覚として移民がどんどん押し寄せてくる状態には耐えられないと思う人が多いのです。トランプが今回再び選ばれた大きな理由としても移民問題があると思います。

 トランプの場合は、いわゆる白人ナショナリズムと結びついていて、人種差別的な政策すら肯定されて、特に警察の取り締まりについては警察の立場を後押しし、。それによって国内の黒人層やその支持派との激しい軋轢が起きるのではないかと思います。

 ただ、妊娠中絶の問題について彼自身はあまりこだわっていないと思います。保守派の中でかつての最高裁判決をひっくり返してほしい意向が強かったので保守派の判事を入れたわけですが、実際に中絶の問題でどういうスタンスを取るかについて彼はこだわりが少ないのではと思います。

◇同盟国という考え方が薄いトランプ

 トランプ個人は、基本的に同盟国という観点で他国を評価する観点はもたないと思います。彼にとってはアメリカにとって得になる程度がどれくらいかということです。中国が一番得にならない競争相手かもしれないけれども、日本にしても、イギリスにしても、ドイツにしても潜在的に競争相手であることは変わりがないので、そういう国のためにアメリカが損になることはしない、というのが基本的な発想です。だから、中国や北朝鮮の問題で日本が困るのであれば、日本が自分の力で何とかしなさいというのが基本で、日本がきちんとお金を払うならば、武器なり、情報なり、売ってあげますよというのが基本的なスタンスになるだろうと思います。

 最初に述べたように、彼は戦後世界で最強だったアメリカの国内社会が問題を抱えるようになった原因は、同盟国などと称する国のために技術や資金を分けてしまったからと考えています。どうかすると同盟国はアメリカをおだてて豊かさを盗んでいった連中だというくらいに見ているかも知れません。根底では同盟国は信用ができず、むしろ、敵としてはっきりしている国の方がライバルとしては明確だと、そういう発想だと思いますね。

◇石破首相はどう対応したらいいか

 日本の誰がやっても日米関係はなかなか簡単にはいかないと思います。前政権期の安倍晋三首相のときには、大統領就任前に非公式チャネルを通じてニューヨークで会談してある種親密な関係を築いたというエピソードがありました。石破さんもそのようなことをやりたいのだと思いますが、あの時はトランプさん自身も自分が大統領になることをよく分からなかったし、正直心細い面もあったと思うので、安倍という日本の首相が会いに来たのは励まされたという面はあると思います。北朝鮮や中国の問題の問題で安倍さんの意見を聞いた面は確かにあったと思います。

 安倍首相は、結果的にうまくやったのですが、それは共和党の国際主義者という人たちがある程度中継ぎになってくれたのと、安倍さんがゴルフ好きだったことも含めて人的な関係などがあったことと、アメリカから気前よく兵器などを買ったこともあったと思います。うまくもてなしたわけですけど、決してトランプは安倍さんを信用していたわけではないのではと思いますし、日本という国に対する見方を変えたわけでもないと思います。安倍さんの時にうまくやったから今回もうまくできると考えている人はいると思いますが、現時点でそれほど楽観できる要素はないと思っています。

 石破首相は安倍首相ほどの対米人脈もないし、多分、世界観も大きく違っていると思うので、そもそもお互いの話が分かるのかどうかということも怪しいと思います。トップレベルでの話よりも、側近で根回しをしていくスタイルの外交になる可能性が高いのではないかと思います。

◇国際政治の現在 冷戦後秩序の変容過程

 次に世界の状況についてです。今の国際関係を見るときに、2022年2月の(ロシアによる)ウクライナ侵攻で新しい状況が始まったと見ることが一般的だと思いますが、私は必ずしもそうは見ていないのです。一つは2008年のリーマンショックで、それまでの冷戦後秩序が限界点に達し、それ以降、ある種の変容過程に入っている。2016年にはトランプの大統領当選、イギリスのEU離脱国民投票、トランプの大統領当選などがありましたが、より大きなものは2020年からのコロナパンデミックです。これにより各国の政治も経済も社会も価値観も、我々が意識する以上に変わってしまいました。プーチンのウクライナ侵攻はその派生物とすら捉えられるかも分かりません。また、2021年8月のアメリカのアフガニスタンからの撤退が大きな意味を持っていて、ウクライナ侵攻もその影響があった可能性があります。アメリカの対外政策もアフガニスタンでの20年間の関与の失敗という重荷を背負っています。

 そういう中で、ウクライナ戦争の衝撃によってたしかに西側の結束感が強まりました。とりわけ2022年から2023年の去年の夏頃までです。しかし2023年の秋からは状況が変わり、イスラエルとハマスの戦争、アメリカの中でトランプ復活が明確になってきたことなどにより、西側の結束感がそれほど支配的な傾向でないことが分かってきました。国際秩序の在り方は不透明感を増し、この2年半余りの間にゆっくりと戦争は拡大傾向を示しています。最近では北朝鮮のロシアへの派兵という、専門家すら驚いた展開が起きています。2022年にウクライナで戦争が始まり、2023年に中東で新しい戦争が始まり、2024年はこの戦争の影響が東アジアにもはっきりと及んできたということが今年の特徴の一つとなるかもしれません。

 また、ヨーロッパとロシアが切り離されたことの一つの結果、ロシアはインド太平洋シフトを加速し、同時にヨーロッパもまたインド太平洋地域との関連性をより強く認識することになりました。インド太平洋が世界の重心になりつつある傾向は2010年代にかなり明確になってきましたが、この戦争によって加速されていると言えます。

 そうしたグローバルシフトと同時に、現在は地域的戦争が世界戦争に至る傾向を見せ始めています。戦争の当事者になっていない国も、経済的、文化的、イデオロギー的にはそうした戦争に組み込まれつつあるというのが現在の世界の基本的な情勢となっています。

◇内部矛盾を抱え内向きの中国

 中国は2008年のリーマンショックの後、大規模な財政出動で経済的に世界の重要なパワーとしての地位を固めたわけですが、そのことが腐敗を深刻化し、共産党の統治体制に対するいろいろな揺らぎをもたらしています。その揺らぎに対応することを名目に習近平が独裁的な体制変革を行っている。習近平が、ある種の歴史ナショナリズムに基づいて、中国がかつて持っていたとされる地球的な優越を取り戻そうとするという世界観を強調していることは確かです。しかし、実際には中国にはそういう力はなく、むしろ国内において国家安全という政治体制防衛を優先する立場に、共産党を支えてきた経済開発主義を従属させています。

北京の天安門

 習近平体制自体はとりあえず盤石だと思いますが、国内、とりわけ共産党内には決してそれに肯定的な見方だけではなくて、国内の不満に対する懸念や警戒心が強い。そうした内部的な矛盾を抱えているので、アメリカにとって代わって世界のリーダーになるということはレトリック以上のものはないと思います。

 経済的には失速しているのは間違いないし、政治的にもやはり体制の安全を優先するために内向きになっている。しかし、世界の秩序が崩れている中で中国が活動する余地は一定程度あって、中東でもアフリカでも、その他の地域でも、中国の影響力が拡大していると言えます。ただそれは中国の意図的政策の成果というよりは、西側主導の世界秩序が崩れ始めている状況を利用して自分の影響力を拡大している、あるいはアメリカの影響力を低下させる活動が一定程度成功しているということだと思います。

◇台湾問題は慎重

 習近平が台湾との統一を大きな目標に掲げて、いろいろな手段を用いて台湾の抵抗意志を挫こうとしているのは確かです。しかし、共産党の内部では、台湾との問題でアメリカと全面対決することは体制へのリスクが大きすぎると見ている人は少なくないと思います。10月の台湾海峡の演習は、ある種の妥協点で、比較的短期に演習を終えたというのは、抑制された行動であるということをアメリカなどに伝えるメッセージである一方、かなり実戦的な台湾の封鎖作戦を実行したのは、こうした演習を積み重ねることによって、将来の台湾に対する軍事作戦の準備としても機能させようという両張り的なものだと思います。しかし、習近平政権として台湾に対する武力攻撃のDデイ(実施予定日)、決定的な日付を持っていて行動しているとは思えませんし、中国国内の経済的、社会的安定というものを見ながら台湾への行動を判断していると思います。

◇東アジアに及んできたウクライナ戦争

 北朝鮮の意図はよくわからない点が多いですが、2022年2月のウクライナ侵攻直後の国連総会決議の時から、北朝鮮は中国と立場を異にしてロシア非難決議に反対するという姿勢を示していました。それ以降、積極的に新冷戦という言葉を使い、ロシアとの間で包括的戦略パートナーシップという条約を結び、金正恩とプーチンが相互に訪問し合って非常に親密な関係をアピールしているのは、戦略性を持った動きだと思います。韓国に対し従来の統一路線を否定する方針を打ち出して韓国を主敵としていることの意図も不明ですが、体制の安定のために韓国からの影響を排除しつつロシアと中国の間のバランスを取っているのではないか。これまで中国への依存度が高すぎたと考えていて、ロシアへの依存度を高めることによって中国に対するある種の対抗力も得ようというふうに考えているのではないかと思います。

 ウクライナ戦争は最初の段階からNATOやEUがウクライナに深く関与していましたから当初からある意味で世界性を持っていた戦争です。加えて、北朝鮮は以前からロシアに武器供与を行っていると見られていますし、韓国も従来から兵器輸出はかなり力を入れていた上にロシア侵攻後の欧米の兵器不足を奇貨として、かなり大量に兵器供給国としての地位を固めています。つまり兵器面ではすでに北朝鮮と韓国ともにこの戦争にかなり関与していましたが、今回の北朝鮮による派兵はそれとも質的に違うレベルの話で、より本格的な攻勢関与の可能性があり、まさに戦争が東アジアに及んできかねないという状況があります。

 日本としては、岸田文雄前首相は決まり文句として「今日のウクライナは明日の東アジア」と言っていましたが、東アジアと言うときに念頭にあったのは台湾海峡問題でした。ところが、朝鮮半島情勢が不安定化することになると、日本もアメリカも韓国も計算が変わってくる可能性が出てきたことで、東アジア情勢は複雑さを増しています。

◇戦争拡大を防ぐ仕組みは

 ウクライナ戦争が始まって以降、戦争がエスカレート傾向にあることは否定できず、複雑な流れや経路を経ながらも第三次世界大戦という方向に徐々に向かっているように見えることは否定できません。戦争拡大を防ぐ仕組みが弱まっていることは確かです。冷戦の時代にはアメリカの優越というのは国際秩序の大きな柱を成していたことは間違いなく、加えて核兵器の存在とそれがもたらす世界的破滅の恐怖という要因が世界的に共有されていたことが大きな要素となって、戦争の拡大を抑制するメカニズムが働いていたと思います。

 しかし今日ではアメリカが世界の警察官として、世界を統治する意思を失いつつあることと併せて、核兵器がもたらす破滅的な影響に対しても人々の認識は薄れています。軍事的にも核兵器の絶対性が低下していて、様々な新兵器が、湾岸戦争以来実戦に投入されてきました。現在の戦争になると、いわゆるAIとドローンがウクライナでもイスラエル、パレスチナでも重要な新兵器としてどんどん進展しつつあり、この点でも軍事的にアメリカが持つ影響力は限定されざるを得なくなっています。世界の警察官として戦争を抑制する力を持つ存在がなくなっているというのが今の状況だと思います。

 NATOは冷戦が終わってからどんどん拡大していって、今回のウクライナ戦争の結果、32カ国まで広がりました。冷戦が終わるときには16だったのが倍に増えたのですが、数が増えて同盟として強くなったかというと、そうとは言えず。むしろ、負担になる国が増えたのが実態であり、そもそも弱体化傾向があったと言えます。米軍と同時期にアフガニスタンから撤退した時にはNATOの存在意義そのものが問われるような状況だったわけです。

 ウクライナ戦争によってNATOが活性化したという印象を与えていますが、内実はそれほど変わっていないですし、とりわけアメリカがNATOの中でどういう役割を果たすかについては不確実性が高いのです。アメリカは2010年頃からピボットとかリバランスと呼んで中国を念頭にアジア太平洋に軍事的な重心を置くと表明していますが、NATOがどんどん拡大し、中東の紛争にも関わらざるを得なくなって、どこに優先順位を置くのかアメリカの軍事政策も混乱している側面があります。

 この点はバイデン大統領のウクライナに対する兵器支援の中途半端さにも表れています。この戦争をウクライナが勝利する形で終えたいとするなら、プーチン政権との正面からの対決が不可避になるはずですが、それをする意思を持たず、いかに間接的な方法で戦争を勝利につなげるかを考えてきたのですが、今のところ奏功していません。

(取材・構成 冠木雅夫)

【略歴】
中西寛(なかにし・ひろし) 京都大公共政策大学院教授(国際政治学)
1962年生まれ。京都大大学院法学研究科修士課程修了。京都大法学部助教授、同大学院法学研究科教授、同大公共政策大学院院長。を経て現職。14~16年日本国際政治学会理事長。著書に『国際政治とは何か 地球社会における人間と秩序』(中公新書、読売・吉野作造賞受賞、03年)、『国際政治学』(共編著、有斐閣、13年)『漂流するリベラル国際秩序』(共著、日本経済新聞出版、24年)など。

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