一水四見 多角的に世界を見る
小倉孝保

第7回 トランプ、バイデン両氏の意外な共通点
米国憲法は新大統領の就任日時を選挙翌年の1月20日正午(東部時間)と定めている。返り咲きを決めた共和党のD・トランプ氏はこの日、民主党のJ・バイデン氏から政権を引き継ぐ。
考え方や政策、立ち居振る舞いが異なる新旧大統領にも共通点はある。二人は生涯にわたり飲酒経験がない。
バイデン氏は親類に酒で問題を起こした者がいたため生涯飲まない決断をした。トランプ氏も兄が依存症で若くして亡くなった。自身は禁酒の習慣を「私の数少ない長所の一つだ」と語っている。
米国では初代ワシントン以来、ほとんどの大統領が酒をたしなんだ。19世紀に大統領に就いた14代F・ピアース、17代A・ジョンソン、18代U・グラントの3氏は依存症さえ疑われた。
バイデン、トランプ両氏以外で、まったく飲まなかったのは23代B・ハリソン氏だけと考えられている。16代のA・リンカーン、19代R・ヘイズ両氏は酒を控えたが、儀式などでは少量を口にした。
つまり米国は前回トランプ政権が始動した2017年以来、大統領が酒を飲まない珍しい時代を迎えているといえる。
指導者の習慣とは直接関係はないものの、米社会では今、飲酒に対する風当たりが強い。年明け早々、米公衆衛生局のマーシー長官は飲酒に関する警告を発表した。その中で、アルコール飲料にがんリスクを示すラベルを添付すべきだとの考えが表明された。
米国では年間約10万人がアルコールのためにがんになり、推定2万人が亡くなっている。予防可能ながんの原因としては喫煙と肥満に次ぐ3位である。
アルコールは乳がん、大腸がん、食道がん、肝臓がんなど7種類のがんの原因となり、乳がんでは全症例の16.4%が飲酒に起因している。
高齢化の進展や生活習慣病患者の増加で、先進国では医療費が膨れ上がっている。それを抑える目的から、各国で予防医療の重要性が説かれ、飲酒規制を求める声が生まれている。
アイルランドは2023年、アルコール商品のラベルに健康に関する警告文を載せるよう義務付ける法案が成立した。
3年間の猶予を経て、26年5月に施行される予定だ。たばこのパッケージでは見慣れた警告文が、世界で初めてアルコール飲料にも登場する。
カナダの薬物使用・依存症センターは23年1月、新たな飲酒ガイドラインを発表し、ビールやワインなどを週にグラス1、2杯程度に抑えるよう推奨した。従来の「日に1、2杯程度」と比べ、極端に厳しくなった。米国でも、同程度の飲酒量を推奨すべきだとの意見がある。
世界保健機関(WHO)は少量であっても酒は健康被害の可能性を高めるとし、適量なら「百薬の長」になるという説を否定した。
トランプ氏は1期目の後半、フランスやドイツなどから輸入するワインの関税を25%に引き上げ、バイデン政権によって引き下げられた経緯がある。
再就任前から、関税を引き上げる考えを表明するトランプ氏である。業者にとっては、おいしいワインやウイスキーで強硬姿勢を軟化させられないのがやっかいだろう。

小倉 孝保(おぐら・たかやす) 毎日新聞論説委員
1964年生まれ。毎日新聞カイロ、ニューヨーク、ロンドン特派員、外信部長などを経て現職。小学館ノンフィクション大賞などの受賞歴がある。