「トランプのアメリカ」との付き合い方 ――
杉山元駐米大使が語る外交最前線 <下>

トランプ氏の外交姿勢などを語る杉山元駐米大使=中澤雄大撮影
2期目にどう対処? 石破首相へのアドバイス
◇第2次政権は「トランプ色」を前面に
――1月20日から、トランプ大統領の2期目が始まりますが、どう見ておられますか?
杉山 昨年12月初めにワシントンへ行ってきたのですが、みんなが言うには、トランプ氏はホワイトハウスの中や閣僚、役所について4年間学習したので、「トランプ2.0」はもっと強いだろうということです。8年前のように既にできあがった人……ポンペオ国務長官やマティス国防長官のような人を起用するのではなく、彼のお気に入り、大富豪が集まっています。
イーロン・マスク氏が象徴的ですが、それだけではない。財務長官になるスコット・ベッセント氏、商務長官に指名されたハワード・ラテニック氏、駐日大使のジョージ・グラス氏、いずれもヘッジファンドのマネジャー、投資銀行の会長など成功したビジネスマンです。グラスさんは1期目にポルトガル大使だったので初めてではないですが。今度は本当に自分のお気に入り、お金持ちで自分の政策を体現してくれる人を起用しようとしています。国務長官になるマルコ・ルビオ氏も有名な対中強硬派。それから国家安全保障担当補佐官候補のマイク・ウォルツ氏。この人も非常にしっかりしています。単にお金持ちで自分の気に入りというだけでなく、仕事ができる人を配置して、トランプ色を前面に出す。本人も言っていますが、もう再選はないので4年間しかない。2年後には中間選挙があるから、1年か1年半で成果を出そうとしているようです。
ただ、普通は議会とのハネムーン100日と言いますが、全く違っています。先日のつなぎ予算でも、イーロン・マスク氏は議員でもないのに、もうすごい影響力を発揮しています。マスク氏が言う「議員歳費の値上げがダメ」というのは受け入れましたが、「債務上限撤廃」というトランプ氏が言ったのは蹴ったわけです。上院は必ずしもトランプべったりではない。(共和党の上院議員)53人のうち30人ぐらい、下院もみんなトランプの息がかかっていると言われていましたが、蓋を開けてみると、トランプ&マスクの言う通りにはならなかった。今後も議会の動向をよく見た方が良いと思います。
◇「戦争を終わらせる」ための政策は
――トランプ氏は選挙中から「戦争を終わらせる」と強調しています。外交・安全保障政策は大きく変わるでしょうか?
杉山 とにかく戦争、殺戮をやめさせると言っています。ウクライナのゼレンスキー大統領、フランスのマクロン大統領とは既に12月のノートルダム大聖堂の再開式典で会っています。ガザはまだ表には現れてないですが、中東についてもいろんなことをするのは間違いない。トランプ1.0の大きな成果がアブラハム合意(アラブ首長国連邦とイスラエルの国交正常化合意)でしたから、中東和平に向けいろいろなことをやりたいと思っているでしょう。ただ、トランプ1.0にはジャレット・クシュナー氏(トランプ氏の娘婿で大統領上級顧問)が中心でしたが、今度は(政権に)いないから、それを誰がどういうふうにやるのかです。
一方、ウクライナの方は、国務長官になるルビオ氏、国家安全保障担当補佐官になるウォルツ氏が大事ですが、キース・ケロック氏が大統領補佐官としてウクライナ担当特使に指名されています。ペンス副大統領の国家安全保障担当補佐官だった陸軍中将で、80歳と高齢ですが、とてもしっかりした人です。私は彼と親しかったのですが、こういう人を戻すのだなと思いました。外交・安全保障について、多くの人が今度の人事はひどいと言いますが、よく見ると、そこそこちゃんとしていると思います。ウクライナ、中東、それから対中、台湾海峡、日米豪印、対インドも結構いろいろやると思います。ただ、北朝鮮を一気にとは、なかなかならないのでは。
◇不透明部分が多い通商・貿易問題
――インフレ抑制を目指しながら関税を引き上げるという、経済・通商対策では矛盾した方向と言われていますが?
杉山 通商・貿易は分からない部分が多いです。なぜかと言うと、財務長官にスコット・ベッセント氏のようなウォール街の本流の大金持ちを持ってきて、商務長官のハワード・ラトニック氏も投資銀行の会長です。要するにドル高志向だと思います(関税については段階論を主張)。他方では、第一次政権でライトハイザー氏の首席補佐官をしていたジェミソン・グリア氏が今度、米国通商代表部(USTR)代表になります。そうすると確実にメキシコ、中国をはじめとする関税を上げるでしょう。強いドルを志向して、一方で関税を上げて、そうしたら必ずインフレになります。強いドルは貿易にはマイナスです。要するに整合が取れていない。
ドルを高く誘導して関税をかけて、インフレ退治をして、雇用を良くして成長率を上げるというのは、相反することだから、どうやって実現するのだろうかと思います。アメリカで何人かに聞いたら、やはりそう思っているようでした。「でも、トランプ氏は勝負感が強いし、非常に強運だから」(笑)と言う人もいた。よく分かりません。ともかく、就任したらやつぎ早にいろいろやり、株を上げ、関税をかけ、物価が上がったらその時にまた考えるだろうというのです。それで夏とか秋ぐらいになり、そこから1年後の中間選挙を乗り越えることを考えるのかもしれません。
◇日米関係、今までの努力を分かりやすく伝える必要
――日米関係はどう動くと予想されますか。日本側の注意点は?
杉山 日本にとっては、為替と関税が非常に大きな課題です。関税はメキシコ、中国が先だと思いますが、きっと日本にも来るでしょう。日本については、第1期トランプの時に、茂木敏充経済再生相とライトハイザーUSTR代表の交渉で日米貿易協定ができています(2019年10月署名、農水産品、工業品などの関税撤廃・削減を規定)。僕も大使で出ていました。あの上でこれから何をやるのですか、ということになります。
日本側としては、グリア氏(USTR代表候補)はちょっと若いけれど、ラトニック氏(商務長官候補)やベッセント氏(財務長官候補)のようなトランプ氏と直接話ができる人とよく話をする必要があります。そして何よりも首脳同士で話をするようにしていかないといけません。焦る必要はないですが、どこかでやった方が良いでしょう。
外交・安全保障は、米軍の駐留経費、それから防衛予算ですが、別に日本だけではなく、どこの国に対しても言っていることです。GDP2%とか、お金を払わないと守ってやらないとかで、各国とも大変です。
しかし、基本的な対応は、安倍さんの時にしたように、経済関係であれば、日本はこれだけ投資をしていますということを大統領本人に説明することです。防衛でも安保でも、一生懸命きちんとやるということを説明する。岸田文雄前首相の時にあれだけのことをやって、それを石破茂首相も引き継いでいるわけですから、新たにとんでもないことになるとは思えないですね。

新春インタビューに応じる杉山元駐米大使。右は本誌編集長の冠木雅夫=外務省で
いずれにせよ、今までの努力をきちんとトランプ氏にインプットしていく。大統領本人に首脳から直接言っていくことだと思います。安倍首相の場合は(首脳会談で)毎回やっていました。防衛もそうですが、貿易、投資については、いつも新しい図をつくって、どこに誰(どの企業)が投資して、雇用はどれだけ生まれて、どれだけGDPにプラスになるかを示していました。具体的な例を示すのが良いのです。僕も大使として、できるだけ現地を見て、日頃からPRする、実情を伝えることをやっていました。
石破首相もこれからおやりになると思いますが、現地から吸い上げて、大統領にインプットしていただきたいと思います。日本は既に非常に良いことやっているのですから。
◇安倍昭恵さん、孫正義さんの会談は意義深い
――安倍元首相夫人の安倍昭恵さん、ソフトバンクグループ会長の孫正義さんが当選直後にトランプ氏に会ったことについて、どう見ておられますか?
杉山 お二人ともそうですが、結局、オールジャパンでアメリカの代表になるトランプ氏とその周辺に対峙すべきなのです。孫さんにしても、昭恵さんにしても、日本社会で知られている方で、それなりに日本を代表をする人です。そういう方が早くトランプ氏とじっくり話ができていることは、オールジャパンで考えれば、すごく良いことだと思います。昭恵さんはトランプ夫人のメラニアさんと非常に個人的に仲が良かったし、個人的な関係がある人が橋渡しをしている。トランプ氏が昭恵さんを呼んでいるわけですから、それはすごいことです。ただ、最後は政府、特に石破首相がトランプ氏と相対でやらなければいけないですから、そこへよくコーディネートして持っていくことが必要ですね。
首脳会談は1月20日の大統領就任前でなくても良いのです。そんなに焦る必要はない。(就任後の)なるべく早い時期にとにかくまず会って、個人的な信頼関係をつくり、安倍さんとの関係のように、日本は良いという感じも持ってもらい、具体的なところへと入っていく。対日政策でいろいろなことが出てくるのは春から夏でしょうから、一日を争うというほどではないですが、とは言え、できるだけスピード感を持ってやってゆくことだと思います(※2月1日時点で「2月6~8日の日程で訪米し、7日にトランプ大統領との初の首脳会談が行われる見通し」と報じられている。1月20日の大統領就任式に出席した岩屋毅外相は翌21日〔日本時間22日〕、ルビオ国務長官と初めて会談し、「自由で拓かれたインド太平洋」の実現を目指して緊密に連携してゆくことで一致。同時に日本企業による対米投資及び経済安全保障を含む日米経済関係の重要性などを確認した。さらに日米豪印外相会合に臨み、地域の安定と協力を深めることでも一致した)。
安倍元首相については、私は外務省の役人として、かなりの期間お仕えしました。国内の政治的なところではいろんな議論があり、それはそうかもしれないですが、対外的なところ、特にトランプ氏との関係は本当にすごいことだったと思います。
◇石破首相は「自分らしさ」を出すのが一番
――石破茂首相との首脳会談が2月にありそうですが、何かアドバイスするとすれば?
杉山 石破首相は、どのリーダーもそうですが、ご自分の一番の「らしさ」を出されるのが一番良いと思います。誰だって、みんなそれぞれのパーソナリティとか、それぞれの特徴があるでしょう。お好きなこともあるし、そうでないこともある。安倍さんも自分で考えてやられたわけだから、石破さんも石破さんらしさを堂々とやっていただきたい。特にトランプさんは、役所に頼らないで自分で旗を取ってやる人です。石破さんもそういうふうにおやりになってきたし、今でもおやりになっていると思うから、そうされれば良いのです。それで本当にケミストリー(相性)が合わないということはあります。例えばメルケルさん(独首相=当時)はあまり合わなかったわけです。その人によって、その時のタイミングもあります。それは運もあります。絶対大丈夫かどうかは分かりませんが、リーダーとしてのご自分の持ち味を出して、石破さんらしさでおやりになれば、トランプさんはそういう人物が結構好きな人ですから。習近平さんのことは割と好きだと言っています。プーチン大統領のことだって嫌じゃないと言うでしょう。きちんと自分の立った人が良いのではないかと思います。
もちろん振り付けは僕ら(外交当局)もやるのですが、首脳会談ですから、最後は、リーダーのパーソナルな力で相手と向き合うのが醍醐味です。それは自信を持っておやりになったら良いと思います。日米関係の全体の状況は悪くないですから。トランプさんも日本のことを必要としています。しかも彼は日本がそんなに嫌いではない。
支える側としては、安倍さんの時に何が良かったか、トランプ1.0のことを学習をした上で、トランプ2.0がどうなって、何が違うかを考える。スタッフはそれを踏まえて振り付けを考えないとダメです。こういうことは、たくさんの人でやるものではなく、限られた人だけできちんと、岩屋さん(外相)、林芳正さん(官房長官)とか……在米大使館や外務省、他の役所も持てる力を結集する。その上で最後はご本人がおやりになるのが良いと思います。 (取材・構成 冠木雅夫)
杉山 晋輔(すぎやま・しんすけ) 元駐米大使、元外務事務次官
1953年生まれ。早稲田大学法学部中退、オクスフォード大学修士。外務省入省後、条約局条約課長、韓国公使、エジプト公使、アジア太平洋局長、外務審議官(政務)、外務事務次官、駐米大使などを歴任。現在、外務省顧問、早稲田大学特命教授。著書に『日本外交の常識』(信山社)、共著に『国際紛争の多様化と法的処理――栗山尚一先生・山田中正先生古希記念論集』(同)など。