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コラム マネー侃々諤々
 関 和馬(経済アナリスト)

国会議事堂と霞が関の官庁街。来る参院選の結果が政権の行方を左右する

コラム

第13回 日本の未来像、ダイナミックな議論を

 早くも2025年の上半期を終えたが、この間、大事件が相次いだ。
 なかでも、中国の新興AIディープシークの登場、ドナルド・トランプ大統領による関税ショック(「解放の日」)、そしてイスラエルと米国によるイラン空爆などは特筆に値する。これらは、既存の世界秩序が壊れつつあることを示唆しており、過去の常識は通用しないと思わせるに十分な衝撃を私に与えた。

 一方、株式市場を見る限りは「波乱」とは程遠い。世界の株価は4月の関税ショックを難なく乗り越え、6月初旬には全世界株インデックスのMSCIオールカントリー・ワールドは史上最高値を更新している。
 トランプ氏が「解放の日」と表現した4月2日を境にウォール街では、「ABUSA」という造語が流行した。これは「Anywhere But U.S.A.」(米国以外ならどこでも)の略語であり、「米国以外の株に投資しろ」ということである。
 しかし、結局のところ米国株にも資金は戻り、すでに主要3指数(NYダウ平均、S&P500種、Nasdaq)は史上最高値を更新した。米国債暴落という悲観論も現状は杞憂に終わっている。

 とは言え、為替は例外だ。外国為替市場では6月末までに米ドル指数が年初来で11%近く下げ、上半期として1973年以来の大幅下落を記録している。トランプ氏は見事なまでにドルの価値を破壊したというわけだ。

 株価は景気の先行指標とよく言われるが、もはやそれは過去のものになったと私は考えている。と言うのも2008年のリーマン・ショックや2020年のコロナ・ショック以降、世界経済はますます「K字(格差)トレンド」の様相を強めているからだ。これは、世界経済は基本的に格差拡大を伴った緩慢な回復に終始するという分析である。一部の人しか持たない株価の動向を景気の先行指標とする考え方はもはや時代遅れということだ。
 むしろ昨今の持続的な株高はこの先のインフレを暗示しているような気がしてならない。保護主義や地政学リスクの台頭、さらには気候変動によって世界は長期インフレに突入したと思われる。

◇ポピュリズムにインフレの追い打ち
 K字(格差)とインフレの組み合わせは、多くの国で国民間の分断を深める方に作用するはずだ。一般的に国の衰退期には、貧富の差や価値観の相違が拡大し、左派と右派が妥協せずに何が何でも勝とうと、争うポピュリズムが席巻する。これはまさに今の日米の姿だ。そこにインフレという追い打ちが加わる。

 日本でも7月20日に参院選の投開票があり、今回は実質的な政権選択選挙になりそうだ。今夏に敗戦から80年を迎える日本の社会は明らかに過渡期を迎えており、こういう時こそ政治にはダイナミックな議論を求めたい。
 間違いなく世界情勢は風雲急を告げている。ヘッジファンド世界最大手ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者で著名投資家のレイ・ダリオ氏は自身のSNSで「世界秩序は崩壊の瀬戸際にある」と警鐘を鳴らした。

 しかし、危機は機会でもある。政治家には向こう数十年に及ぶ日本の未来像について大いに語ってもらいたい。例えば2023年12月に就任したアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は、緊縮財政を実施し、規制緩和を断行した結果、財政は14年ぶりに黒字と転じ、月間のインフレ率は2桁台から直近では3%程度に低下した。こうした改革は国民に大きな痛みを強いたが、ミレイ氏の支持率は高止まりしている。これはポピュリズムが万能ではないという証左だ。

 日本の政治家も綺麗きれいごとだけでなく現実的な政策を語ってもらいたい。トランプ氏という“外圧”も含めて今は日本が変わる好機である。むしろ、ここで変われなかったら日本の凋落は決定的となりかねない。
 今回の参院選では多くの政治家による熱い議論を期待しながら投票所に足を運ぼうと思う。

【略歴】
関 和馬(せき・かずま) 経済アナリスト
第二海援隊戦略経済研究所研究員。米中関係とグローバル・マクロを研究中。

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