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米大統領選とアメリカ政治の行方(全2回)
渡辺 将人(慶應義塾大准教授)

政治・外交

第2回 共和党の変質と非関与主義
  ──トランプ外交と台湾の事例

◇労働者利益vs「アイデンティティ政治」の民主党、レーガン時代「3本柱」を変質させる共和党
 2024年大統領選挙でのトランプ勝利で、東アジアの外交は不確実性と向き合うこととなった。特に対中政策を巡り、日本と台湾はアクセスのある政治家の政権入りで落胆も味わっている。トランプ主演・監督のもとでのリアリティショー政権のような顔ぶれだが、忠誠心と組織の統率は1期目とは段違いである。

 前回の論考で、「民主党内部ではハリス敗北から何を学ぼうとしているのか」「共和党はレーガンが体現した『小さな政府』をやめるのか」を問いかけた。

 まず民主党だが、ハリス敗北を受けて多くの党内の戦略家から「経済ポピュリズム路線」への踏み込みにブレーキをかけていた陣営幹部への批判が噴出している。シリコンバレーやウォール街の大企業の献金筋とのしがらみからも民主党が究極的にはサンダース的な「大企業批判」ができない体質が露呈した形だ。ハリス陣営はサンダース的な「反大企業」の階級闘争レトリックを和らげることに専心していた。どれだけ表面的な政策が「綺麗」でも、(労働者層)有権者が求めているのはコミットメントの「本気度」を表す感情であり、労働者の利益が一番だと雄叫びを上げなければ支持はついてこないという反省だ。

米大統領選激戦州の一つ、ペンシルヴェニア州で勝利したトランプ氏(写真はフィラデルフィアの街並み)

 労働者の利益を第一に考えると、人種、セクシュアリティなどの「アイデンティティ政治」が二の次になる。これらの均等な両立を諦める「文化を語らない」方針を訴える声もある。トランプを支持する労働者は「銃所持権利」「キリスト教」など「文化」で引き込まれている側面があり、文化戦争に持ち込まれると、民主党に戻ってきてくれないからだ。だが、「文化左派」なしに今の民主党は党勢を維持できず、この方針がすんなり受け入れられるかは未知数だ。

 他方で共和党は、「小さな政府」「キリスト教に基づく家族の価値」「軍事的に強いアメリカ」の3本柱に軌道修正が見られる。減税を行いつつも自由貿易は放棄して保護主義とインフラ投資を重視し、孤立主義ではなく防衛力は維持しつつもコスト意識の強い「対外非関与」で、1番目の「小さな政府」は変質型となり、3番目の「軍事的に強いアメリカ」の関与は選択的に縮小傾向にあり、ネオコンの居場所は狭まっている。トランプ時代に強く残るのはキリスト教に基づく「文化保守」で、これが見事にトランプ支持基盤のイスラエル支持とも一致している。

◇イスラエル情勢が「ゲームチェンジャー」として規定した構図
 こうした共和党の変質を加速させた「ゲームチェンジャー」は2023年10月のハマスによる攻撃に端を発したイスラエル情勢だった。それまで共和党はウクライナ支援を巡って割れていたが、イスラエル支持の声の高まりで共和党が一致結束した。逆に、ガザの被害拡大は民主党を分裂させた。反戦リベラル派の動きは今後も党内の分断要因になるだろう。バイデン政権はウクライナ、中東、中台関係の3方面に同時対応できず、翌11月の米中首脳会談で「米中対立の棚上げ」に踏み込んだ。

 新政権はこの構図からスタートする。バイデン政権の継続になると見られたハリス政権は予測可能性が高く、トランプ政権は予測困難なことから中国にも台湾にも懸念されていたが、支持基盤向けの政治をする法則では一貫しており、その点で優先順位は明確でもある。非合法の移民のメキシコへの強制送還、カナダとメキシコへの関税、ウクライナへの支援縮小やNATOへの負担要求、イスラエル支持継続などである。

エルサレムの街並み

 中国は、安倍昭恵氏のトランプ夫妻との食事では話題に出たとされ、言うまでもなく長期的に最大の問題であるが、政権始動時にシンボリックに扱う喫緊の最優先リストには必ずしも入っていない。

 マイク・ポンペオやニッキー・ヘイリーが外され、奇想天外とも言える忠誠心重視の政権布陣の中で、ワシントンの「文法」がわかるという意味で信頼できる相手である国務長官のマルコ・ルビオ、国家安全保障担当補佐官のマイク・ウォルツに対しては、日本はこれまで積み上げてきた外交的なバックチャンネルがある。

 また、首席補佐官になるスーザン・ワイルズにも独自ルートはある。ただ「ローガン法」(1799年制定=民間人が政府の許可なく外国政府との交渉を禁じる)を口実に鉄壁の堅さで、石破総理とトランプ次期大統領の会談の実現自体は不発に終わった。無理に長時間の会談を設定することで意見や性格の不一致が早期に表面化しない方が得策だったという見立てもある。

◇トランプの思考回路に調整を求められる台湾

 今回のトランプのカムバックで衝撃を受けている台湾は、期待していたバイデン・ハリス政権路線から頭を切り替えつつある。2016年にトランプが勝利した際に蔡英文総統(当時)との電話で米台接近を演出したのとは反対に、頼清徳政権は無闇にトランプにアクセスしようとしない慎重かつ適度な距離を置く姿勢だ。台湾が無闇に主要争点になってしまうと、トランプの支持基盤を喜ばせるために台湾が利用されてしまう(半導体技術を盗んだという一連の発言も)。その上、「経済利益」と「非関与主義」(台湾の自主防衛)でトランプ対応の下地を作っている。

 第1に、現在のGDP比で約2.5%の防衛費を3%まで引き上げ、段階的に時間を稼ぎながらも5%に持っていく考えだ。第2に、さらなる武器購入をアメリカから行う。ウクライナ戦争で米国内製造が追いついていない中、製造の停滞解消を求めていく。第3に、半導体のアメリカでの生産をさらに拡大して雇用でも半導体供給でも旨みに配慮する。これらが政権の基本方針だが、戦争を好まないトランプの性質も梃子にする狙いだ。

台湾総統府

 台湾有事が起きてもトランプは本格的にコミットしたくないとされているが、これは上記の共和党に漂う非関与主義の大きな流れからは自然で、2024年大統領選挙の共和党予備選でも対中強硬を売りにしたニッキー・ヘイリーですら「台湾に自主防衛させるために武器供与で支援する」が演説の十八番だった。中国に対して台湾に手出しをしないようなシグナルを出し続けることが、トランプの利益になるロジックである。

 対中強硬の中でも価値問題で「反共」のルビオになるべく長く政権にいてもらい、「お前は馘(くび)だ」第1号にならないようにしてもらうには、ルビオが対中姿勢を政権内で過度に目立たせ、ポンペオが訪台時にリップサービスで繰り返した「台湾は独立国家」に類似する勇ましいことを言わない方が得策であることも、頼政権は理解している。また、頼総統はこの半年、「独立派」懸念を払拭するために、極めてローキーで安全運転をしてきた。

 ただ、台湾有事を防ぐための論理の組み立てについて、民進党政権がトランプ政権の温度を調整するには一定の紆余曲折もあった。国防次官に指名されたエルブリッジ・コルビーがウクライナへの支援縮小を唱えた際に、民進党外交筋は強く反発した経緯があるからだ。台湾は日本と同じで、「ウクライナを負けさせることは習近平に誤ったメッセージを与え、台湾有事の危険を高める、だからこそウクライナを支援し続けるべきだ」という論理をアメリカに浸透させようとしていた。

 しかし、コルビーが唱えていたのは、ウクライナ支援の縮小は対中に資源を振り向ける「優先順位」の論理で、むしろ台湾のためでもあった。この相互誤解がコルビーの台湾観にあるしこりを残した可能性はあると指摘する国民党外交筋もいる。現段階では民進党外交筋もトランプ次期政権のウクライナへの関与縮小を受け入れる構えであるが、トランプ政権の脳内に「台湾」を目立たせることが得策ではないと考える慎重策の背後にはこうした事情も絡む。

 ただ、政権のトランプ対策はこれで良くても、台湾が見捨てられるのではないか、アメリカが台湾防衛に本気でコミットしないのではないかという「疑い」に基づく「疑米論」は世論レベルでは完全に払拭できない。国民党外交筋は、頼政権があまりに悠然と楽観主義で構えていて危機意識に怠りがあると批判するが、この「悠然」ぶりは不安を拡大させない内側の世論対策でもある。

 以上は台湾のトランプ政権へのチューニングの事例であるが、あくまで2024年12月末時点でのものである。政権自体が揺れる韓国やその他の東アジアは別の対トランプ対策の課題を抱える。

【略歴】
渡辺 将人 (わたなべ・まさひと)
1975年生まれ。シカゴ大学大学院国際関係論修士課程修了。早稲田大学大学院政治学研究科にて博士(政治学)。コロンビア大学、ジョージワシントン大学、台湾国立政治大学、ハーバード大学で客員研究員を歴任。北海道大学大学院准教授などを経て2023年より慶應義塾大学総合政策学部准教授。北海道大学大学院公共政策学研究センター研究員を兼任。専門はアメリカ政治・外交、比較政治。受賞歴に大平正芳記念賞、アメリカ学会斎藤眞賞、サントリー学芸賞ほか。近著に『アメリカ映画の文化副読本』(日本経済新聞出版、2024年)、『台湾のデモクラシー』(中公新書、2024年)、『混迷のアメリカを読みとく10の論点』共著(慶應義塾大学出版会、2024年)など。著訳書多数。

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