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日本財政の危機的状況
第2回 政府の借金はすでに「持続不可能」

経済・財政

黒田前総裁がもたらした異常事態

 下の図は国民総生産(GDP、かつては国民総支出[GNE]と言われていた)、つまり日本全体で一年間に稼ぐお金に対する、日銀が保有する国債の額の推移を90年前からグラフにしたものだ。
歴史的な推移を見ないと、現在の日本の正しい状況はわからない。あまり世に知られていないファクトがこれで一目瞭然となる。


図−1

 1927年の昭和恐慌、1929年のアメリカ発の世界恐慌で経済危機に陥った直後からグラフはスタートする。1932年、大蔵大臣だった高橋是清はリフレ政策を開始したが、日銀保有国債はGDP比4%程度だった。バラマキが長続きしないのを知っていた彼は早めに引き締めようとするが、「軍事費も削るのか」と反発した軍部が起こした2・26事件で暗殺されたのが1936年。是清の暗殺で財政の歯止めが失われ、翌37年に始まった日中戦争で借金は増えていった。とはいえ、保有する国債はGDP比5~6%程度に抑えられていた。

1937年から物価が本格的に上がり始め、太平洋戦争の前年の1940年にインフレ率が30%に達したときにも、保有する国債のGDP比は11%。翌年の太平洋戦争突入でも12~3%で、大戦末期の1943年でも15%程度の水準だったことは重要だ。

 敗戦の1945年は記録が残っておらず、翌年の46年にハイパーインフレが発生、預金封鎖、新円切り替え、財産税を実施したときでさえ保有する国債のGDP比は20%に達していない。

異次元緩和でバラマキの底が抜けた

 戦後、経済が回復すると当然、日銀保有国債の額は減っていったから、その時期は割愛する。問題は2012年、黒田総裁の異次元緩和が開始される前年でも、保有する国債はGDP比25%だったことだ。ところが異次元緩和の結果、2022年には100%弱に達した。異常な数字といってよい。

 しかも日本政府は、コロナ対策の始末をつけていない。2020年に新型コロナウイルスが世界に拡がった時期、パニックで世界中の国々がお金をバラまいたが、放っておけば経済が死ぬことを考えれば仕方がない措置だった。ただ、その後が問題であり、コロナが終わったのに、バラマキの幕引きをしてないのは日本だけだ。欧米はすべて増税や別の財源を手当てし、コロナ対策費を穴うめしている。日本だけがバラマキを止めていない。

 いま背負っている借金も大きすぎる問題だが、日本の政治家がバラマキをまったく止めようとしないことが最大の問題である。当初予算も過去最大の114兆円に達し、岸田政権下で、借金はさらに増えている。

与野党すべてがバラマキという絶望感

 財務省の元事務次官や現役の中枢幹部5人にインタビューすると、全員が「自民党はどうしようもない。政治家が財務省の言うことをまったく聞かないので絶望感しかない。財政再建などと言えば袋叩きにあい、悪者扱いされる」と口をそろえて同じ意見だった。

 自民党だけではない。与党の公明党も、野党も、一番左の共産党まで全てバラマキ路線だ。 官僚にこれ以上の借金膨張をやめたいという意識があっても、最終的に決めるのは政治家だから、そのバラマキの指示に従わざるを得ないのだ。

 政治家は民意に従うから、そうした政治家が選出されてしまう選挙制度に問題があるかもしれない。いまの小選挙区制度が自民党議員に有利という側面もあるだろう。しかし選挙制度については紙幅の関係で、これ以上は論じない。

日本財政は明らかに持続不可能

 日本の財政はもはや持続不可能な状況にあり、このままいけば、いつ破滅的な危機がやって来るかわからない。

 前回書いた通り、まもなく政府債務の対GDP比は270%を突破し、先進国で過去最悪だった1946年のイギリスを超える。当時のイギリス政府の債務は戦争が原因であり、戦争が終われば財政負担は減っていった。いま日本が政府債務を増やしているのは戦争ではなく、社会保障関係費の増大が最大の理由である。

 日本の少子高齢化はもはや止めようがなく、社会保障費は今後ますます増える。したがって日本の政府債務はイギリスを超えたあと、さらに悪化することだろう。

 そうした状況のなかで巨大な天災、例えば富士山大噴火、首都直下型大地震、あるいはもっと被害が広範に及ぶ南海トラフ大地震が起きたら、財政はどうなるだろうか。南海トラフ地震では津波が大阪湾や伊勢湾に押し寄せることが想定されており、関西地域と中京地域の工業地帯が壊滅する。そのとき巨額の財政支出が必要となる。それをまかなう新規の国債の引き受け手は、果たしてどこにいるのか。

 巨大天災や台湾有事が起きれば、私たちの生活はその瞬間から、一挙にレバノンやスーダンに近い状況にならざるを得ないのだ。日本の財政にはもう一刻の猶予もない。今ここでかなりの大改革をしなければ、いずれは私たちの財産で政府の借金をあがなう状況となり、日本の庶民は何もできないまま追い込まれていく。

 いまこそ、痛みを伴う財政の大改革に着手できる政治家を、厳しく選んでいかねばならない。

(構成 編集部)

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