「日本財政の危機的状況」

経済・財政

第1回 日銀に出口はない

日本政府の借金は世界最悪レベル

 金利が上がり始めたいまでも、ほとんどの日本人は、日本財政の危機的な現状を直視していない。日本政府の借金はどれくらいあって、今後どうなるのか。もし政府の借金が返せなくなれば、円の暴落、国債格下げ、金利急上昇、最悪の場合、昭和21年に最大90%の財産を奪った財産税、預金封鎖、新円切り替えの悪夢が再来する。

 日本の財政状況は世界最悪レベルで、中東のレバノン(GDP比283%)に次ぐワースト2位だ。レバノンは19世紀半ば以降、世界ワースト3に入るといわれる経済破綻に苦しんでいる。IMFによると、レバノンは過去4年間で自国通貨の価値の約98%を失い、GDPは40%縮小、インフレ率は3桁、中央銀行の外貨準備の3分の2が流出した。先進国で歴史上最悪の1位は1923年のドイツで起きた1年半で1兆%というハイパーインフレで、物価は100億倍に上がり、100円のパンが1年半後に1兆円になった。日本はそれらに次ぐほど悪い状況だと数字は示している。

 政府の借金は額よりも対GDP比が重要になる。例えば100兆円の借金があっても、日本のようにGDPが500兆円以上の経済規模の大きい国では問題ない。だが日本政府の借金はいま、GDP比257%に達している(2022年)。これがどれほど異常な数字か、下の図を見てほしい。

図−1
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歴史でみる先進国の借金ランキング

 上図はIMFのデータをもとに、1900年以降130年間の先進国の対GDP比債務を追ったものだ。これを見ると、政府の借金は戦時に増えていることがわかる。第一次世界大戦後のフランスが約240%、第二次世界大戦後のイギリスは269%を記録し、これが近現代史上、最悪の数字だ。

 日本政府の借金は太平洋戦争敗戦直前の1944年に204%を記録した。敗戦直後は統計がなく、約240%と推計されるが、それでも1946年のイギリスよりは下だった。それがいま、戦争をしたわけでもないのに、先の敗戦直後よりひどい状況に陥ってしまっている。まもなく戦後のイギリスを抜いて史上最悪になるという異常事態だ。

世界最悪の借金はどんな危機をもたらすか

 財政の専門家の常識では、国家の借金はGDP比60~70%までが許容範囲で、100%を超えるとかなり危険な状況という。2009年の経済危機のギリシアでも借金は176%だったし、先進国で日本の次に財政危機を指摘されるイタリアも144%だから比較にならない。アメリカ政府も借金を増やしているが121%で、しかも法律で上限が設けられ、政府債務を増やすには議会の承認が必要で、それがブレーキ役となっている。

 日本には債務上限のブレーキがなく、どこまでも借金を増やせてしまう。しかし、円安がカナリヤとして登場してきた。今年4月から5月にかけ、ついに1ドル160円に到達し、あわてた政府が9兆円の介入を実施した。一時151円台に戻したがすぐ158円台に下がり、円安が止まらない。日本政府の借金が多すぎるうえに、日本とアメリカとの金利差が大きいため、海外勢は円はまだまだ売れると見透かしている。日銀の信認が落ちれば、日銀が発行する円の価値はさらに急落するだろう。

日銀が債務超過に陥る日

 いまの日銀の最大の弱点は、当座預金の残高だ。日銀は金融不安などに備えて、各金融機関に預かり資産の一定比率を準備預金として日銀内の当座預金に入れさせている。大規模金融緩和で金融機関の国債を買い入れたことで、日銀にある各銀行の当座預金額が法定準備預金額を超過して大膨張した。アベノミクス開始後の9年間で10倍の563兆円という、世界随一の異次元の数字となった。

 ここで問題となるのが、当座預金が日銀にとって負債にあたり、利息を払わないといけないことだ。日本の金利が上がれば、この当座預金に利息をつけなければならない。560兆円として1%上がれば5・6兆、2%で11兆円を払わないといけないが、日銀の自己資本は10兆円強しかない。1%の利払いをすると2年後、2%なら1年後に債務超過となる。

 数年間債務超過になっても、ただちに影響はないと日銀は主張するだろうが、莫大な借金を抱えた国の中央銀行が債務超過となれば、海外勢は機械的に円売りに走り、円安は1ドル200円を軽々と突破する。インフレはさらに過酷になり、金利上昇圧力となる。そうなれば国債も暴落し、財務省も日銀も打つ手がなくなる。

 プーチン大統領は2022年にウクライナへの軍事侵攻直前、ロシアの中央銀行の当座預金の額を約4兆円に減らしていた。欧米の経済制裁を見越して、ロシアの通貨ルーブルが暴落しても、中央銀行が金利を20%まで上げることで通貨防衛に成功した。

 日本に不測の事態が起きたとき、円を防衛できるのか。ロシアは中銀の当座預金を4兆円に減らしておいたことで金利を目一杯引き上げることができたが、当座預金の残高が560兆円もある日銀にはそうしたことは全く不可能なのだ。つまり、日銀は通貨防衛やインフレ退治のための利上げがもはやできないわけで、はっきり言って中央銀行の体をなしていない。

「金利を上げたいができない」が日銀総裁のホンネ

 植田和男日銀総裁は、円安是正と物価引き締めのために、金利を上げたいが、当座預金の利払いを考えて身動きできないのが実情だ。中央銀行の最大の目的であるインフレ対処に失敗した日銀の罪は重い。日銀の金融緩和政策の出口を奪ったアベノミクスはきわめて悪手で、麻薬同然の措置だったことはもはや明らかである。

 黒田東彦前総裁は、辞任後の内輪の会合で、「日銀が出口を出たらとんでもないことになる」と述べたという。麻薬を打った張本人が「日銀に出口はない」というのだから、日本財政の未来は厳しい。

(インテリジェンス・ニッポン編集部)

<第2回 政府の借金はすでに「持続不可能」>に続く

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