マネー侃々諤々
関 和馬

米大統領選の「最大の敗者」
ご存じのように、ドナルド・トランプ氏が11月5日に行われた大統領選に勝利し、第47代への就任を決めた。再選に失敗した大統領が返り咲くのは、1892年に2期目を決めたグローバー・クリーブランド大統領に次いで米国史上2人目のことである。
選挙が近づくにつれ民主党のカマラ・ハリス候補の失速ぶりは明らかであったが、世論調査だけを頼りにして「稀に見る接戦」と唱え続けた主流メディアこそ今回の大統領選における最大の敗者かもしれない。これは日本の既存メディアにも当てはまる。
これはあくまでも個人的な感想だが、今回の大統領選を振り返ると、ここ日本においても既存のメディアよりかはX(旧Twitter)に代表される各種SNSの方が選挙結果を正しく予想していたように思う。
近年の米国では若年層を中心にポッドキャスト(インターネット上で配信される音声番組)、TikTok、Xなどの媒体を情報源とする人たちが明らかに増えた。実際、今回の大統領選でもテレビ離れは鮮明だったようで、米3大ケーブルチャンネルの合計視聴者数は2020年比32%減の約2100万人となっている。CNNに至ってはほぼ半減したという。
SNSの普及した現代では、あらゆる情報が入手可能であるため、有権者はその人の政治的な好みに合ったストーリーを簡単に見つけることができるようになった。そのせいか、自身の主張を裏付ける情報ばかりを入手し、それを武器に相手を論破しようという人間が確実に増えている。
こうした言わば反対意見に聞く耳をもたない有権者の増加こそがいわゆる分断の基礎なのかもしれない。米調査会社ギャラップの首席エコノミストであるジョナサン・ロスウェル氏は以前、このような現状を鑑みて「人々はパラレルワールド(交わることのない並行世界)に引き込まれた」と評した。
ここ日本でも似たような流れが起こっている。既存メディアは間違いなく支持を失いつつあり、SNSなど新興メディアの台頭が著しい。米国と同じく、多くの有権者は自分の好みの政治色をメディアに求めている。
トランプ氏を支持した実業家のイーロン・マスク氏は、大統領選の直後に、ユーザーの影響力は主流メディアをしのいでいるとし、「今やあなたがメディアだ」と高らかに宣言した。
SNSの登場により良く言えばメディアは民主化したと言えるが、そこに対立相手と和解しようという機運は根付きそうにない。マスク氏が買収した後のXは保守化したと言われ、トランプ次期大統領はフェイスブックを民主党寄りだと一貫して糾弾している。
主流メディアの存在価値が今ほど問われたことはない。しかし、世の中を先導できなくなった従来型メディアは商業的にも厳しさを増しており、それを打破しようと今後は対立の先鋭化を煽る方に舵を切っていくと予想する。
関 和馬(せき・かずま) 経済アナリスト
第二海援隊戦略経済研究所研究員。米中関係とグローバル・マクロを研究中。
